見栄や嫉妬が渦巻くSNSで繫がるアラフォー男女。欲望の先に見つけた生き方とは…?
公開日:2018/12/31
誰かをうらやんでも意味がないし、虚しくなるだけ……。わかったつもりでいても、他人のSNSを見て、心がザワザワしたことはないだろうか?
特に、なまじっか面識のある同級生のフェイスブックを見てしまった時の衝撃は大きい。結婚した、昇進した、子供が産まれた……。自身とのあまりの違いに落ち込み、深いため息をついたことは、私は一度や二度ではない。
では、落ち込んだその先、一体どのように自分の人生を歩んでいけば良いのだろう――。
深沢潮の『かけらのかたち』(新潮社)は、大学時代、テニスサークルに所属していた40代半ばの男女と、その関係者たちを描いた連作短編集だ。
家族ぐるみで20年以上付き合い、毎年鍋パーティーを開催する彼らは、フェイスブックでも繋がっている。そこは、投稿する者もしない者も含め、見栄や嫉妬、憧れや自己顕示欲が入り混じる、一見すると地獄のような場所なのだが、彼らの内情は実に様々であった。
例えば、第一話「マドンナとガガ」に登場するのは、40代半ばのバツイチ・健介と結婚した梨奈。彼女は健介の20歳年下だが、勤務先の上司だった彼と、穏やかな関係を築いていた。
だが、二人の家で行われた、大学時代のテニスサークル仲間の鍋パーティー当日。
健介の男友達とその妻だけを招待したはずのパーティーに、サークルのマドンナだった優子が、呼んでもいないのに現れた。
そして、梨奈が全く知ることのなかった元妻・晴美の話をはじめたのだ……!
パーティー終了後、優子と健介の仲を疑った梨奈は、久しぶりにフェイスブックにログインして、優子のページを探し出す。
優子のページは、好きなアーティストに「マドンナ」と記されており、ゴルフ、ランチ、ワイン、エステ、ネイルなど、自慢ばかりが並んでいた。梨奈は辟易しながらも、ある行動を起こすのだが――!?
本書は、ほぼ全ての章に、何らかの形で優子が登場する。彼女は、雑誌の美熟女コンテストで特別賞をもらい、総合商社に勤務する夫と美人の娘がいる。自宅では料理教室を開催し、隙がないように思えるのだが、実際のところ、夫婦間は問題だらけであった。
「どんなことがあったって、私はいくつになっても、ずっとずっと女として認められたいし、求められたい」と言う優子は、フリーライターをする友人に、整形を疑われ、生き方に辛辣な批判を受けることもある。ママ友からも「源氏物語の源典侍みたい」と密かに思われている。
優子は実際に、自業自得ともいえる手痛い失敗もするのだが、自分の生き方や目的をはっきりさせ、何を言われようが、自信を持って突き進んでいく様子は、少しうらやましくもあった。
本書は他にも、10年近く不妊治療を続け、子どもは授からなかったものの、お互いに労わり合って暮らしていく夫婦や、バツイチの12歳年上の女性と結婚し、四十半ばという高齢出産で、双子を授かった夫の心の闇などが描かれている。彼らは皆、幸せを求めて、人生を軌道修正しながら歩んでいく。
それでも、迷いや葛藤は常につきまとうのだが、周りではなく、「自分がどうありたいか」とちゃんと向き合っていく様子は心に深く感ずるものがあった。
誰かと比較して心が苦しくなった時、スマホを置いて、この本を読んでみるのも良いかもしれない。一筋縄ではいかない人生だが、何が幸せかは、自分の心が決めるのだという覚悟が持てるような気がする。
文=さゆ