「海の世渡り上手」と呼ばれる魚って? ギリギリ生き残ったらこうなった! オモシロさかな図鑑

暮らし

公開日:2018/12/26

『海でギリギリ生き残ったらこうなりました。』
(鈴木香里武/KADOKAWA)

 世界でただ一人、フィッシュヒーラーという肩書を持つ、学習院大学の現役院生の鈴木香里武(すずきかりぶ)氏。それもそのはずで、この肩書を持つには「フィッシュヒーリング」なる学問を学ばなければいけない。しかし、「魚たちの織りなす複雑な色、動き、形、模様から受ける心の影響を心理学的に研究する」というこの学問は、まだ鈴木氏が提唱中の新たな分野。よって鈴木氏は目下、ただ一人のフィッシュヒーラーというわけだ。


 そんな我が道を行く鈴木氏のいでたちは、男性ながらも「金髪巻き髪ロングにセーラー服」がトレードマーク。ハコフグ帽子でおなじみのさかなクンでさえ、いろんな意味で「ギョギョ?!」と、目を丸くするであろう人物なのである。

 個性全開の鈴木氏だけに、著書『海でギリギリ生き残ったらこうなりました。』(KADOKAWA)もじつにユニークな内容だ。

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 巻頭の週刊誌テイストにレイアウトされた見開きページでは、カニの姿をした記者たちが登場し、彼らがスクープした記事で、本書の概要を伝えてくれている。

 それによれば本書では、食うか食われるかの厳しい海中サバイバル競争を生き抜く過程で魚たちが身につけた、驚くべき能力の数々などが紹介されるとのこと。

 要は、子供から大人までが楽しめる、魚トリビア情報が満載の、新たなスタイルの魚図鑑だ。

●海の世渡り上手「ニセクロスジギンポ」のギョギョ?!

 では本書より、いくつかのユニークな魚たちを紹介していこう。まず、第1章「身を守るためにいつも必死です。」では、「擬態」(他の魚などに姿形や行動を似せる)が得意な、なりすまし名人や、寝袋を作って身を守りつつ寝るなど、あの手この手のサバイバル術を駆使する魚たちが紹介されている。

 中でもユニークなのが「ニセクロスジギンポ」(以下、ニセクロ)で、著者のつけたキャッチコピーは「海の世渡り上手」だ。

 ニセクロが擬態するのは、「ホンソメワケベラ」(以下、ホンソメ)。このホンソメは、他のさかなの死んだ皮膚組織や外部寄生虫を食べる習性を持つ“クリーナーフィッシュ(掃除魚)”で、いわば海のドクター。

 そのため、ホンソメが特有のクネクネダンスをして相手(大きな魚など)に近づけば、捕食はされず(ミノカサゴあたりには食べられてしまうことも)、「お掃除して」と相手は受け入れ態勢を取る。医者ならではのスゴイ特権を持つ魚だ。

 そこに目を付けたニセクロは、何とかホンソメの動きを擬態してなりすまし、捕食されないように相手に近づく。そして相手が「お掃除お願い態勢」に入るや、掃除に見せかけつつ、相手の皮膚やウロコを食べて生き延びているそうだ。


 特権を持つ魚に擬態する悪知恵といい、本家ドクターをみんなでシェアする知恵といい、じつは海の生き物たちは、想像以上の知性の持ち主たちなのだ。

●章ごとのコラムも要チェック! 役立つエピソードが満載!

 各章の終わりには“海のライフハック・コラム”が設けられている。例えば、第一章の終わりにあるのは、「ハオコゼのトゲに刺されたら、みそ汁にすぐ手を突っ込め!」だ。

 もし海でハオコゼやカサゴなど、毒のトゲを持つ魚に手を刺されてしまったら、「40度から50度くらいの熱いお湯に、刺されたところを30分ほどつけるといい」という。

 著者はハオコゼのトゲに刺されたとき、たまたま近くにいた漁船の人から味噌汁をもらって、そこに指をつけて難を逃れたそうだ。


 毒にいいのは熱湯であって、特にみそ汁の成分が効く、というワケではなさそう。もちろん著者は、応急処置だけで済まさず、ちゃんと医者に行くことを勧めている。

●地球環境の破壊はウミガメの生態系も壊す?

 第3章「今日もなんとか命をつないでます。」では、「求愛」「繁殖」などがテーマだ。
 紹介したいのは、ウミガメの産卵。海岸で卵からかえった赤ちゃんガメが、ヨチヨチと海に帰っていくあのシーンを思い出していただきたい。

 あの赤ちゃんたちが、オスかメスか、いつ、どう決まるかご存じだろうか?

 本書によれば、「卵がかえるまでの砂の温度で男の子が生まれるか、女の子が生まれるかが決まるのよ。29℃より高いと女の子、低いと男の子になるの」とのこと。

 従って、温暖化などで気温上昇することで、メスばかりが生まれてしまうといったこともあるという。環境破壊は、ウミガメの生態系をもアンバランスにしてしまうわけだ。


 本書には他にも、サンマ、ヒラメ、サメなど身近なものから、深海魚などの珍しい魚までが登場し、彼らのユニークな特徴を教えてくれる。また本書は、ページによって語り部キャラが変わり、いろんな口調やトーンで本文がつくられている。イラストもふんだんにあしらい、読み仮名もしっかりとフォローしてくれている本書。子供たちも喜んで本書を読み進めながら、知識を蓄えていくだろう。

 一人でこっそりと楽しむもよし、友人同士、親子や家族みんなで読んで、思い切りギョギョ?! と盛り上がるのもよしの一冊だ。

文=町田光