漫画家になるために選んだ大学とは──なんとまさかの東京大学!

マンガ

公開日:2018/12/25

『漫画学科のない大学1』(ゆずチリ/小学館)

 暮れも押し迫ってくると、受験生にとってはラストスパートの時期だ。将来の夢などによって目指す大学は決まってくるのだろうが、さしずめ「官僚」ならば「東京大学」だろうか。「漫画家」は東大とは縁がなさそうにも思えるが、実はそうでもない。ちょっと調べただけでも、それなりの数がヒットするはずだ。『漫画学科のない大学1』(ゆずチリ/小学館)も、東大に通った経験を持つ漫画家によって描かれた作品である。

 どうやらこの漫画の作者・ゆずチリ氏は、最初から「漫画家になること」が目標だったらしい。ならばなぜ東大に入ったのか? それは作者が高校の先生に「東大に入ったら好きにしていい」といわれたから。彼はその言葉を「東大に受かればもう一生、勉強しなくていい」と解釈した。そして毎日、漫画が描き放題だと考えたのだ。本書は、そんな作者の分身である「くずチリ」が体験した最高学府での日常が割と詳しく語られている。

 主人公・くずチリの脳内には「女子高生」が棲んでおり、その女子高生が彼にさまざまな質問を投げかけていくことでストーリーは展開。本来ならば友人たちとのキャンパスライフが描かれるべきなのだろうが、残念ながらくずチリは基本的に友人が少ない。なぜなら入学手続きの際、必要な手続きだけ済ませると途中で帰ってしまい、クラスの親睦会などに参加しなかったからだ。ゆえに会話の相手は女子高生が中心であり、この漫画の根幹を成しているのである。

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 とはいえ、くずチリはそのままずっと脳内女子高生と語り続けるワケではない。彼が入学した東大には授業もあればサークル活動もある。くずチリは勉強する気持ちは全くなかったが、試験は必ずやって来る。当然、単位を落とし続けるのだが、中にはホトケのような教授も存在し、彼のような男にすら合格を与えてくれるのだ。そしてくずチリのメイン目標は「漫画家になること」なので、選ぶサークルが「東大まんがくらぶ(まんくら)」となるのは必然であった。女子高生の質問に答えながら、まんくらの部長と遊んだり、合宿に参加したりするなどの交流が描かれるのである。

 このようにキャンパスライフが語られる一方で、盛り込まれる要素がもうひとつある。それはくずチリの語る「漫画論」だ。中でも面白かったのが「新人賞」に関する考察。くずチリは新人賞と大学受験は「同じ」だという。大学受験の合否判定には「A~E」のランクがあるが、それと同じようなものが新人賞にもあると見ているのだ。そして合格点に達していなければ「挑戦するだけムダ」といい切る。「自己採点より本当の点数はもっと高いかもしれない」と反論する女子高生に対し、くずチリは「自分の実力がわかっていないほうが危険」という。「どこが面白くないのか」など自分の弱点がわかっていないと、対策のしようがないからだ。まあナルホドと思える部分もあるにはあるが、自己採点があまりに厳しすぎて結局デビューせずに終わったケースも存在するので注意は必要だろう。

 結果として、本書の作者は漫画家になっているので初志貫徹したといえよう。しかし冷静に考えれば、東大に入って漫画家になるよりは、やはり官僚とかを目指したほうがよいような気もする。もちろん進路は人それぞれなので、作者のような道を選ぶのも当然アリだ。これから大学を受験しようという人は、どの大学を選ぶにしても自分のやりたいことに全力で挑めるところにしてもらいたい。そうすれば、今までの努力も報われるはずだ。

文=木谷誠