サーカス団員と吸血鬼が異能バトル!『アリス殺し』の著者が贈る、ダークなサスペンス・ミステリー
公開日:2018/12/22
経営不振で大ピンチのサーカス団「インクレディブルサーカス」。かつて大勢いたメンバーも給料の未払いを理由に去ってゆき、今ではピエロの団長以下10人を残すのみ。それでも力を合わせ、巡業先の公園でテントの設営を始めた団員たち。そこに突如姿を現したのは、彼らの命を狙う吸血鬼のグループだった! 吸血鬼退治の特殊チームがサーカスに偽装している、という情報をつかんだ吸血鬼たちが、勘違いと思い込みからインクレディブルサーカスに攻め込んできたのだ。
圧倒的なパワーを誇る怪物たちに、次々と追いつめられてゆく団員たち。恐怖と戦慄の一夜が幕を開けた……。
ミステリーやホラーで活躍する作家・小林泰三の最新刊『人外サーカス』(小林泰三/KADOKAWA)は、サーカスを舞台にくり広げられる残酷で奇想天外なサバイバル・ミステリーである。サーカス、吸血鬼、マジシャン、ピエロ……と魅力的なモチーフを詰めこんだおもちゃ箱のような世界は、著者のヒット作『アリス殺し』『クララ殺し』などにも通じる世界観で、ゴシックでダークなものを好む人には見逃せない長編に仕上がっている。
もちろん、魅力的なのは世界観だけではない。本書の読みどころはなんといっても、おそるべき吸血鬼軍団とサーカス団員たちの息を呑むようなバトルシーンだ。この小説に出てくる吸血鬼は、不気味な姿形にふさわしい超常的な力を備えている。自由自在に空を飛び、傷つけられても再生する、ほぼ不死身のモンスターだ。力では圧倒的に劣るサーカス団員。しかし日頃のステージで培った特殊技能を武器に、吸血鬼たちに立ち向かってゆく。
空中ブランコ乗りのカップルと女吸血鬼キャタピラーとの壮絶な一戦、日本人マジシャン蘭堂と吸血鬼のリーダー・グリズリとの頭脳戦など、それぞれに趣向を凝らしたバトルの行方は予測不可能。ミステリー的なツイストをふんだんに織りまぜた、残酷で美しいアクションは小林泰三の真骨頂といえるだろう。
ミステリー的といえば、ラスト付近にはどんでん返しも用意されているのでお楽しみに。近くの森で起こったある怪事件が、あっと驚く真相へとつながってゆく。個人的に心惹かれたのは、小さなサーカス団を自らの居場所に選んだ団員たちの、キュートな人間模様だ。マジックの失敗から心に傷を負った蘭堂が、自信を取り戻してゆく過程も胸を打つ。
血の飛び散るシーンも多いが、その描写はあくまでスタイリッシュ。悪夢のようなファンタジーとして楽しむことができるので、「ホラー系はちょっと苦手…」と物怖じせずに、ぜひ手を伸ばしてみてほしい。最後まで生き残るのは人間か、吸血鬼か? 一気読み必至の痛快作だ。
文=朝宮運河