フェルメール「真珠の耳飾りの少女」の真珠はホンモノではない!? 『語りたくなるフェルメール』
公開日:2018/12/30
ヨハネス・フェルメール。光の表現が独特で「光の魔術師」とも呼ばれ、17世紀のオランダで数々の作品を生み出した画家だ。ちょうど日本で「フェルメール展」が開催されていることもあり、ご存じの方も多いだろう。
絵画には、作家独自のスタイルだけではなく、当時の時代背景や文化が反映されていることも多い。何度も目にしたことのある絵画でも、そこに隠されたストーリーを知ると、新しい発見ができることもあるということだ。『語りたくなるフェルメール 教養としての名画鑑賞』(西岡文彦/KADOKAWA)では、今まであまり語られることのなかったフェルメールの名画の舞台裏を徹底的に解説。絵画を通して当時のオランダの人々の生活を垣間見ることができる。
■「真珠の耳飾りの少女」の真珠はホンモノではない!?
頭にターバンのような布を巻き、耳に大きな真珠をつけた少女が描かれた本作。背景の黒とターバンの青のコントラストや、少女の耳に輝く大きな真珠が印象的な、フェルメールの代表作だ。この真珠、実寸大と考えると実は相当な大粒。この大きさへの違和感から、著者は模造品である可能性を指摘する。当時のオランダは真珠ブームの真っ只中で、模造品の技術も向上していたという。当時成立していた最新の技術を使えば、ガラスと塗料で真珠に似た質感を出すことができたというのだ。模造品か、そうでなければフェルメールが大きさを「盛った」かのどちらかではないかと本書では指摘されている。
■家政婦が活躍したオランダ
フェルメールの代表作に「牛乳を注ぐ女」という作品がある。文字通り、女性が台所で牛乳を注いでいる様子を描いた絵画だ。著者によれば、プロテスタントの市民国家として独立したオランダでは、家事が重視されており、家事をとりしきる家政婦は、収入こそ低いものの、家政に関して大きな発言力を持っていたそう。当時のオランダを訪れた外国人のなかには、家政婦と女主人の区別がつかなかった人もいたとか。フェルメールの描く家政婦の存在感には、そんな社会的な背景もあったのだ。
■フェルメール作品のモデルの顔を「顔認識」で徹底分析!
フェルメールの作品に描かれた人物は、モデルが特定されていないことでも有名だ。そこで本書では、絵画版「顔認識」を決行。描かれた顔の造形からカテゴリーに分け、モデルを推測するという試みだ。フェルメールの作品のなかでも、とくに顔の傾向が似ている2つのグループに「瓜実系」と「丸顔系」がある。それぞれ同一人物を描いたと推察されるが、著者は一方が画家の妻であり、他方が画家のパトロンの妻であると推定していく。数々の「証拠」をもとに「真実」を探っていく過程は実にスリリング! 是非本書を手に取り、真実を確かめて欲しい。
どこかミステリアスな印象を受けるフェルメール。名画を通して見えてくるのは、当時のオランダの人々の生活や文化だ。本書には、思わず誰かに教えたくなるような情報が満載。フェルメールが生み出した様々な作品について、当時の時代背景や文化と照らし合わせながら丁寧に解説されており、絵画のことを知るだけではなく、教養も身につけられること間違いなし。フェルメールを観たことがある方も、本書を読んで改めて美術館に足を運ぶと、新鮮な気持ちで鑑賞できるだろう。また、フェルメールを観たことがない方や知らない方は、本書を読めば実物を観たくてたまらなくなるはずだ。
文=松澤友子