「永遠に祟り続けます…」有名神社で起こった殺人事件から見える、現代神社業界の闇

社会

公開日:2019/1/2

『神社崩壊』(島田裕巳/新潮社)

 2017年末、東京都江東区にある富岡八幡宮で、宮司(ぐうじ)である姉を元宮司の弟が刃渡り80cmの日本刀で惨殺するという血腥(ちなまぐさ)い事件が起こった。加害者は犯行直後に自殺し、その遺書には「永遠に祟り続けます」と記されていた――。この陰惨な事件を入り口として、現在の神社業界をとりまくさまざまな問題を掘り下げたのが、『神社崩壊』(島田裕巳/新潮社)だ。宗教学者である著者は、『葬式は、要らない』(幻冬舎)のベストセラーでも記憶に新しい。

■神社らしからぬ凄惨な事件を引き起こした原因とは?

 事件が起こった富岡八幡宮は東京の、とくに下町の人間にとっては、江戸三大祭りのひとつ「深川八幡祭り」が行われる神社ということもあって、かなり身近な存在である。毎年、初詣には多くの参拝客が訪れ、正月のお賽銭だけで2億円になるという。さらに不動産の賃料収入などもあわせると、少ない年でも年間約5億円、多い年になると約15億円もの収入があったとされる。

 犯人は、金遣いの荒さや派手な女性関係が原因で宮司の職を解任されたのだが、その際には1億2000万円もの退職金が支払われたというから驚きだ。いっぽうで被害者の姉のほうも、連日のホストクラブ通いが地元では有名であった。このような莫大な収益をもたらす神社の利権をめぐるドロドロに、姉弟の骨肉の争いが加わったことで、あれほど凄惨な事件となったのだろう。

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 ただ、富岡八幡宮のように恵まれた収益のある神社は、神社業界全体で見ると少数派である。本書によれば、年間の収益が1000万円を超える神社は16.2%しかない。宮司個人の年収も300万円未満が6割を超えており、その多くは農業や会社員、教員などと兼業で生活を支えているというのが実情だ。つまり神社業界は超格差社会であり、全体を見れば衰退産業といえる。

■全国各地の神社を統治する宗教法人との軋轢も原因に?

 それから事件の背景には、全国の神社を統括する神社本庁との軋轢(あつれき)もあったとされる。神社本庁が、被害者である姉を宮司として認可しなかったことを不服とし、富岡八幡宮は事件発生の3カ月ほど前に神社本庁を離脱しているのだ。神社本庁は加盟する各神社の宮司の人事権を握っており、それが原因で近年、富岡八幡宮以外でも、日光東照宮や明治神宮、比叡山の日吉大社、能登半島の気多大社(けたたいしゃ)といった有名神社と神社本庁とのトラブルがひんぱんに起きていたという。

 そもそも、日本各地の神社は特定の氏族や近隣地域と強く結びつき、その安寧(あんねい)を祈るものとして個々別々に長い間存続してきた。統一的な組織をもたないのが神社であり、神道の本来の姿だったのだ。しかし明治に入って国家神道が成立すると、はじめて全国の神社は伊勢神宮を頂点とされる形でまとめられ、管理されることとなった。神社本庁は、この流れを受けて戦後に設立されている。

 そういう意味で、現代の私たちの知っている神社のあり方は、じつはかなり歴史の浅いものといえるだろう。伊勢神宮が天皇家の氏神とされながらも、歴代の天皇は参拝しておらず、はじめて参拝したのは近代に入って明治天皇である事実からも、それはうかがえる。本書を読めば、そういった“現代”の神社が抱える矛盾と限界がよくわかるはずだ。

文=奈落一騎/バーネット