ぶっちゃけ、社会人になったら「学び」は必要? 落合陽一はどう答えるか――
公開日:2019/1/14
人生100年時代と言われる現代において、学ぶことの意義そのものが変質しつつある。かつて高度成長期の時代には、よい大学に入りよい企業あるいは官公庁に入って定年までひとところで勤めあげるために教育を受けるということが一般的であった。ところが現在は、転職などによって一企業に勤める期間は短くなっているうえに、定年退職してから一生を終えるまでの期間が、現役で働く期間に匹敵するほど長くなっており、「よい会社に入るために学ぶ」という意味が薄らいできている。
そういう時代に生きるわたしたちが、どのように学び、また学ぶ人をどう育てるのかを、平易な言葉づかいで教えてくれるのが『0才から100才まで学び続けなくてはならない時代を生きる学ぶ人と育てる人のための教科書』(落合陽一/小学館)だ。
■一生学び続けなければならない本当の理由とは?
生まれてから死ぬまでの生涯学習の重要性が説かれている昨今だが、人生を通じて学ばなければならない理由について、本書を参照しながら考えていきたい。
AIが台頭し、私たちの生活の大部分をそれが支える時代が近づいてきた。抽象的な思考を必要としない分野ではすでにAIによる効率化や非人化がすすんでいる。このことを前提とすると、わたしたちは“抽象的な思考を伴う分野”に注力して人間の存在意義を見出さざるを得なくなる。社会環境が著しく変化するいま、せっかく身につけた能力でも不要になってしまうことだってあり得るだろう。
こうした世の中で生き残るためには、あるいは自分の存在意義を再確認するためには、状況に応じて必要になる能力や考えるちからをその都度鍛えなければならない。その手段となるのが「学ぶ」ことなのである。
■効果的な「学び方」が変化していることに気づいているか?
ここまでで「学ぶ」、そして「学び続ける」ということの大切さが少し分かってきたと思う。次に問題となるのは「どのように学ぶか」である。学ぶことの重要性を理解しても、現状に即した学び方ができなければ、学ぶことの意味が薄れてしまうからだ。
著者の落合陽一氏が目をつけたのは、近年取り沙汰されている「STEAM教育」である。これはscience(科学)、technology(技術)、engineering(工学)、art(アート)、mathematics(数学)の頭文字をつなぎ合わせた言葉で、科学的・数学的な批判的思考を養うとともに、アートによって新しい着眼点を見つけるスキルを身につけ、技術や工学に基づいたプランニングや創造力を鍛える教育をいう。
このSTEAM教育を行うにあたっては、言語、物理、数学、アートの4要素が必須のものとなる。すなわち、わたしたちはひとつの視点からものごとをとらえるのではなく、言語的なアプローチ、物理的なアプローチ、数学的なアプローチ、アートからのアプローチでもって、複眼的にひとつのものごとを眺めなければならないのだ。
たとえば「リンゴ」について考えてみよう。言語という側面からとらえたリンゴは情報という観点でいえば非常に限られており、この言葉を聞いて思い浮かぶリンゴは人によって異なる。そこでリンゴを数学的な側面からとらえてみると、そのリンゴの価格や等級など新たな情報を付け加えることもできよう。アートという側面からとらえると、情報量はさらに飛躍的に増し、アートでの表現が巧みな人の手にかかれば、ひとつのリンゴにひとつのリンゴ以上の価値づけをすることができるようにもなる。この例から、アプローチのしかた次第でものごとはいろいろに解釈することができるということがお分かりいただけただろう。
この4要素からのアプローチができてこそ、STEAM教育の根幹である「独創的な着眼点を見つけ、批判的に考え、工学的に設計し、技術でもって実践する」がはじめて生かされるのである。
インターネットを通じて最新情報をいつでもどこからでも得やすくなった現代では、情報そのものの価値は相対的に下がっている。そうした中で、自ら主体的に学び、その成果で情報に“新たな価値づけ”を行うことが、これからの社会で生きていく上では非常に重要だと痛感する。
文=ムラカミ ハヤト