闇が深すぎる「地面師」の実態――法律のプロが詐欺に加担するケースも…
更新日:2019/1/18
新年早々、「地面師」なる詐欺師たちの逮捕が相次いでいる。1月3日、FNN(WEB版)はこう報じた。
「積水ハウスとの土地取引をめぐって、地面師グループが逮捕された事件で、主犯格2人が詐欺などの疑いで再逮捕された。
内田マイク容疑者(65)と土井淑雄(よしお)容疑者(63)は、2017年、東京・品川区の土地取引で地主になりすまして、積水ハウスから、およそ63億円をだまし取った疑いが持たれている」
また、1月11日には、フィリピンに逃亡していた主犯格の一人・カミンスカス容疑者が強制送還され、警視庁に逮捕された。
昨今、ニュースによく登場する「地面師」について、まず触れておこう。
地面師とは、「不動産の持ち主になりすまし、勝手に不動産を転売して大儲けする詐欺集団」──と、教えてくれるのが『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』(森 功/講談社)だ。
そして著者が、「地面師詐欺の頂点に立つとされる犯行集団の頭目」と位置付けるのが、冒頭のニュースに出てくる内田マイク容疑者なのである。
ぜひ、この内田マイク容疑者の名前を覚えておいていただきたい。注目する理由は後述しよう。
本書は、史上空前の55億円(本書記述)の被害に遭った「積水ハウス事件」を筆頭に、アパホテルが騙された溜池駐車場事件ほか、近年の主立った地面師事件の詳細や、地面師が生まれたその歴史的経緯などを教えてくれる内容だ。
●まるでスパイ映画!? 地面師グループの巧妙な手口とは?
本書を読むと、積水ハウス、アパホテル、不動産デベロッパーなど、百戦錬磨のはずの土地取引のプロたちが、なぜ地面師グループに騙されてしまうのかがよくわかる。
例えば不動産売買には、地主本人であることを証明するパスポートや免許証、その他、いろんな関係書類が必要だ。地面師グループの手口は、まるでスパイ映画のようだが、「道具屋」と呼ばれる、精巧な偽造印刷技術をもった集団たちを駆使して、これらを偽造する。
また「手配師」と呼ばれる詐欺師が、老人ホームや福祉施設、あるいは温泉街などから、本当の地主の年齢に近く、かつ、一芝居打てる素人を調達する。
そんな地面師グループの手にかかれば、買い手側が弁護士など法律の専門家を伴って折衝の場に臨んでも、詐欺行為が見抜けずにまんまと億単位のお金を取られてしまうのだ。
その巧妙な騙しのテクニックは、本書でご確認いただきたい。特に現在、高齢の親が土地管理をしているという人、親から土地を相続する予定がある人、土地付き建物の購入を考えている人は、特におすすめだ。
●第二次大戦後、焼け野原を勝手に私有化したことがルーツ
本書によれば、こうした地面師詐欺のルーツは、第二次大戦後の混乱期にまでさかのぼる。空襲により地主不在となった焼け野原を、勝手に私有化するような連中が跋扈したという。
その後、地面師詐欺のやり口は、バブル期において成熟する。バブル崩壊後、地面師たちは活躍の場を失うも、再びオリンピックイヤーに向けて到来した、プチ土地バブル期を迎えて、現在、その勢力を巻き返しているのだという。
本書が詳細を伝える、それら近年の数々の地面師事件において、必ず背後の糸引き役(陰の首謀者)として名前が挙がってくるのが、内田マイク容疑者なのである。著者によれば、内田容疑者はこれまで数多くの事件を陰で操りながらも、実行部隊には加わらないため、起訴を巧みに逃れてきたという。
しかし潮目は変わりつつあるようだ。じつはこの内田容疑者、本書にも登場する別件の詐欺ですでに有罪が確定(2017年1月25日、東京地裁)し、現在、服役中の身なのである。
もし、「積水ハウス事件」でも有罪が確定すれば、併合罪により、その刑期は「合計で10~15年前後となる気配が濃厚」だとネットでは論じられている。
現在65歳という内田容疑者の年齢を考えれば、もはや出所後に地面師稼業は難しいだろう。「平成の大物地面師が、平成とともに詐欺人生の終焉を迎える」ことを願う警察関係者、不動産関係者、地主さんは、決して少なくないはずだ。
本書には、内田容疑者を筆頭に、日本の土地を舞台にして暗躍する詐欺師たちが多数登場する。地面師事件では、弁護士や司法書士といった法律のプロまでが詐欺に加担するケースもある。老地主のなりすまし役には、軽度の認知症老人までがスカウトされるという。なんとも闇は深い。
果たして今回の内田容疑者の再逮捕が、有罪確定にまで至るのか。そして、ついには地面師詐欺の終息にもつながるのか? その運命の判決が出るまで、本書で地面師詐欺への関心を高めてみてはいかがだろうか。
文=町田光