補助金をあてにするな! 地元がヤバい…と思ったら読む、素人でもできる地域再生のノウハウ
公開日:2019/1/21
「地域再生」といった言葉を聞くと、どんなビジネスを思い浮かべるだろうか? ある人にとっては、アニメやマンガに関連づけた観光イベントでファンを集める「町興し」かもしれない。またある人は、天才的な実業家によって地域の眠っていた魅力が掘り起こされるドラマを期待するだろう。そして、行政による補助金が、地域を活性化させると信じている人もたくさんいるはずだ。
しかし、『地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門』(木下 斉/ダイヤモンド社)の登場人物は、「補助金が地方のガンなんや」と一刀両断する。実際の地域再生では、巨大な資本など当てにできないし、天才実業家も訪れてはくれない。都合よく、地域がアニメやマンガの舞台になるとも限らないだろう。本書は、著者の実体験や調査結果をまじえながら「自らの手で稼ぐ地域再生」のノウハウを説く内容となっている。
主人公・瀬戸淳は東京で働く平凡なサラリーマン。33歳になったある日、実家に帰ってきた淳は家業を畳もうとしている母親に頼まれ、物件の整理を手伝い始める。そんな淳は、役所に勤めている森本から強引に地元の「地域活性化イベント」に参加させられてしまった。集客は芳しくなく落ち込む淳。バーで再会した同級生の佐田は、イベントについて辛辣な意見を述べる。
役所が予算なんか出してやってもあかん。誰も身銭切ってないから本気にならへんねん。儲かりもせんことにみんなで時間使ってりゃ、そりゃ活性化どころか衰退するわ。
そして、淳は佐田に乗せられ、実家の物件を利用した地域再生事業を立ち上げる。テナントとして店舗を募り、家賃収入を得ることにしたのだ。あれよあれよと物事を決めていく佐田たちは、書類通りにしか仕事ができない行政とまったく違う。
淳と佐田のプロジェクトを追っていくと、地域再生について良い意味でイメージが裏切られていく。まず、地域再生は「掛け持ち」でいいということ。最初から収入源にしようと考えず、本業の片手間で十分なのだ。また、地方の路地裏などは意外な人気を集めているため、田舎だから人は来ないなどと心配しなくてもいい。むしろ、いいもののためなら人は時間をかけて足を運んでくれるのだ。
著者は一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表として、数々の地域活性化事業に携わってきた。そのため、小説のスタイルをとっていながら随所の描写には説得力がある。中でも、地域再生の障害となる部分については客観的な考察がなされている。たとえば、本来なら地域再生を積極的に支援するはずの役所が、むしろ妨害する側にまわっているケースだ。事業計画書によって予算を確保する役所では、打算的な計画しか通らなくなりがちだと本書は解説する。
公共開発費、補助金といった制度も落とし穴だ。公共開発費を国からもらっても、維持費までは用意されていない。補助金の審査基準も「どれだけ資金が不足しているか」に偏っており、「どれだけ稼げる事業か」は見られていないのである。補助金を頼りにしてしまったために、無駄に初期投資が大きくなってしまえば地域再生の成功率は低くなる。それにもかかわらず、地域には多額の補助金をもらうことに没頭している人々がたくさんいる。補助金とは一時的な資金にしかならず、結局は地域だけで利益を出す仕組みを作らなければ、事業は何の発展も見込めないはずなのに、だ。
また、地域再生では理不尽な嫉妬や恨みもつきものである。本人たちは「地域のために」と思って全力を傾けていても、周りからは守銭奴扱いされることが珍しくない。地域再生では「天才」より「覚悟」が必要だと著者は番外コラムで述べている。失敗を恐れず、批判にも立ち向かっていける人間こそ、地域を本当に立ち直らせることができるのだろう。あなたも本書を読んで、副業としての地域再生を始めてみてはどうだろうか?
文=石塚就一