甲子園で勝つのが目標の「勝利至上主義」が日本の野球をダメにする! 4番打者・筒香嘉智の提言
公開日:2019/1/20
野球観戦の帰りだろうか。ユニフォームを着た子どもたちが電車に乗りこんできた。彼らは興奮気味にこんな話をしている。
「筒香、すげえよなあ」
「あそこでバコーンって打っちゃうんだもん」
子どもたちを夢中にさせる魅力を持つ男・筒香嘉智。日本を代表する4番打者である。2016年には本塁打王と打点王の二冠、2017年のWBCでは1次リーグB組MVPを獲得するなど、実力は折り紙付きだ。また、好調時の打撃を「身体の中の矢印が一致してきた」といった独特な表現で説明するなど、クレバーな打者としてもファンの間では知られている。
『空に向かってかっ飛ばせ! 未来のアスリートたちへ』(文藝春秋)は、筒香初の著書で、野球指導者へ向けた提言書だ。筒香が野球に向き合いながら、どんな少年時代を送って、日本の4番打者となったのかを記している。実体験に基づいて、甲子園で勝つことを究極の目標にした「勝利至上主義」が、子どもたちへの間違った指導を招いていることに警鐘を鳴らし、自身がスーパーバイザーを務める少年野球チーム「チーム・アグレシーボ」の取り組みなども紹介している。
ビデオが擦り切れるほど再生して観た選手が2人います。読売ジャイアンツの松井秀喜外野手と、大リーグ、サンフランシスコ・ジャイアンツのバリー・ボンズ選手です。
本書の少年時代の項ではこんなエピソードが綴られている。今の筒香のバッティングへの姿勢にはこの2人の影響が少なくない。
水泳やピアノなど、さまざまな習い事をさせた両親。兄と友人と、筒香ドームと名付けられたビニールハウスでのバッティング練習。選手の身体の使い方を指導する矢田接骨院の矢田修一氏との出会い。小学校5年生のころからプロ野球選手になることが目標だった筒香は、人や環境に恵まれてすくすくと育っていった。
しかし、伸び悩んだ時期もある。逆方向へのバッティングにこだわりを持つも、「ポイントを前にして引っ張れ」とコーチに指導されてしまったのだ。そのためだろうか、ある時期の筒香の成績は芳しくない。いずれにせよ、指導者の言葉は選手に大きな影響を与えてしまうのだ。
経験から出てきた話には説得力がある。野球指導者、現役野球選手、野球ファンだけでなく、スポーツを愛する人たちに手に取ってもらいたい一冊である。
文=梶原だもの