厳しくて怖くて男尊女卑…は、誤解です。日本人妻がマンガで明かす“本当のイスラム”

マンガ

公開日:2019/1/28

『笑える 腹立つ イスラム夫と共存中』(ハスナ/飛鳥新社)

 唯一絶対の神を信仰するイスラム教徒は、厳格で男尊女卑。そんなイメージを持っている日本人は多いだろう。イスラム教徒は凄惨なニュースで取り上げられることもあるため、なんとなく怖そうに感じられてしまう。しかし、イスラム教には優しい教えもあり、イスラム教徒には私たちの知らないコミカルな顔がある。それを教えてくれるのが『笑える 腹立つ イスラム夫と共存中』(ハスナ/飛鳥新社)だ。

 イスラム教徒の男性・ハサンさんと結婚した日本人のハスナさんは、夫を知るうちに、イスラム教徒に対して自分が持っていたイメージが崩れていったという。

 果たして、イスラム教徒は私たちとはまったく違う世界の人間なのか、それとも親近感が湧く存在なのか。本書を手に取り、ジャッジしてみてほしい。

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■イスラム教は男尊女卑?

 イスラム圏では、まだまだ女性の社会進出が進んでいない。サウジアラビアでは2017年9月まで女性は自動車を運転することさえ認められておらず、一夫多妻制が認められている国が多いのも現状だ。

 こうした事実を知ると、イスラム教には男尊女卑な考えが根付いているように思えてしまう。だが、ハサンさんによれば、一夫多妻制は男性ではなく、女性のために作られた制度なのだそう。

 実は一夫多妻制は、戦争で多くの男性が亡くなったときのための制度だった。生き残った力のある男性が、寡婦や孤児、結婚適齢期の女性の面倒をみるように定められたのだ。男性だけがいい思いをしそうな一夫多妻制には、社会的弱者になり得る女性を守るという意図が隠されていた。

 また、イスラム教には一夫多妻制を認めながらも、「複数の妻を公正に扱えないようなら、一人だけにしておけ」という教えもある。イスラム社会には結婚時、男性から女性にマフルという結納金を贈る決まりがあり、生活費も男性が支払うのが一般的。そうした現実的な問題があるためか、実際に一夫多妻制を選んでいる人は少数なのだという。

 一妻一夫の日本人男性から見れば少し羨ましくなってしまうような制度には、思わぬ奥深さが隠されている。イスラム教につめこまれた女性への意外な想いに触れると、「イスラム教=男尊女卑」という見方が変わるはずだ。

■日本人の心にも響く“喜捨の精神”とは?

 イスラム教には、日本人である私たちは聞き慣れない“喜捨の精神”というものがある。この教えには「富める者は貧しい者に分け与えよ」という意味が込められており、与える側と与えられる側が対等であるのが特徴。実際に、喜捨の精神が根付いているモロッコでは通行人がいつでも喉を潤せるよう、あちこちの家の前に素焼きの水ビンが置いてある。

 著者であるハスナさん自身も、街中で喜捨の精神に触れたことがあった。

 モロッコの路上で、子どもにお菓子やお金をねだられたときのことである。

ⓒハスナ/シュークリーム/飛鳥新社

 子どもを追い払うために「お金も食べ物もない」と言ったところ、子ども達はなんと自分の食べ物を分けてくれた。豊かな方が貧し方に分け与える“喜捨の精神”を実践していたのだ。こうした教えは、私たち日本人が忘れかけている“思いやりの心”を表しているように思える。

 日本には24時間営業のコンビニがあり、街の至るところに自動販売機が置かれている。それはとても便利でありがたいことだが、その分、他人のことを考え、思いやれる機会が失われているようにも感じる。

 豚肉を食べることや飲酒を禁じるイスラム教の教えの中には、日本人からしてみると、「厳しそう」と思えるものも、たしかにある。しかし、「善行は巡り巡ってやってくる」というイスラム的相互扶助な考え方は、私たちの心に深く響くはずだ。

 なお、本作はイスラム教の教えだけではなく、イスラム流の結婚式やイスラム女子のおしゃれ事情なども掲載しているため、コミカルな仕上がりになっている。イスラム教徒の知られざる日常を知れば、今までとは違った視点で世界を見つめることもできるだろう。

文=古川諭香