「なろう小説」ファン必笑! 最強孤児院長の無双ハーレムファンタジー
公開日:2019/1/31
小説投稿サイト「小説家になろう」の人気ランキングで日間・週間・月間の1位を総なめにして書籍化された異世界ファンタジー『異世界で孤児院を開いたけど、なぜか誰一人巣立とうとしない件』(初枝れんげ/TOブックス)。コミック版が「ニコニコ漫画 Webマンガ年間ランキング 2018」で、公式マンガ部門2800作品以上の中から第10位にランクインするなど、コアなファンに愛されているディープな作品だ。
『異世界で孤児院を開いたけど、なぜか誰一人巣立とうとしない件』は、異世界にクラスメイトごと集団転移させられた主人公・直見真嗣(マサツグ)が、オンボロ孤児院の運営を命じられ、1億年に1人という隠れたレアスキルの力と己の才覚で無双していく異世界ファンタジー。
主人公のマサツグは、自分の能力を信じて疑わず、他人をまったく歯牙にかけない、所謂俺様キャラだ。ただ、家庭の事情で幼い頃から家事をこなし、アルバイトに明け暮れる勤労学生でもあり、そのせいで同級生が幼稚に思えて見下した態度を取ってしまうのも仕方がない。
クールではあるが、弱者に対しては「優しくしているつもりはない、ただ義務をこなしているだけだ」と不器用な優しさを垣間見せる。孤児たちに1日3食の食事とおやつを用意し、経営難の孤児院を立て直すため、畑仕事や露天販売に励む働き者なところも好感が持てる。男性版ツンデレとして見れば、マサツグの偉そうな言動も微笑ましく見えるから不思議だ。
そんな彼を恋慕って孤児院に集まるヒロインたち、元奴隷の獣人娘リュシア、亡国のエルフの元王女エリン、水の精霊シーもみんな可愛く健気な子ばかりで、一緒に孤児院を切り盛りしていくうち、家庭のぬくもりを知らないマサツグにとって大切な家族になっていく。
このように魅力的なキャラクターが揃っているのだが、この作品が特別視されている理由は、ひとえにストーリーにある。
というのも、何かしら彼らが事件や騒動に遭遇して窮地に陥るたび、毎回マサツグが圧倒的な力で悪役を退治するか、知恵と機転を利かせて問題を解決に導き、最後は周囲から大喝采を浴びる。
とにかくマサツグを中心に世界が回っているかのように話が展開するのだ。
しばしば古典演劇では、登場人物が困難に直面した際、舞台袖から神を演じる役者が現れて超自然的な力で人々を救い、神の威光を讃えた「機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)」という演出が流行ったが、まさにマサツグの行いは神の偉業そのものだ。
異世界ファンタジー作品には、少なからず「主人公補正」という主人公が優遇される要素があるが、この作品はテンポも良いので余計にマサツグの快刀乱麻の活躍が際立ってしまう面もある。
緊張感が張り詰めるシリアスな場面でも、いつも自信満々なマサツグの俺様キャラが次第に天然キャラに思えてきて、それに敵味方もいちいち大真面目にリアクションを返すから、ついつい笑ってしまうのだ。
連載当時から、ネット上の感想では「すごい鬼才が現れた」、「『小説家になろう』でありがちな展開への風刺が利いてる」、「ツッコミどころ満載で笑える」、「予想を上回る斬新な展開」、「さすがマサツグ様!」と賛否両論の嵐が巻き起こっていた。
読み慣れればマサツグ節とでも言うべき独特な感性がクセになる作品だ。何が読者にウケるか、どんな流行が来るのか、蓋を開けてみなければわからないのがライトノベルでもある。気になったという方は、ぜひ試してみてはいかがだろうか。
文=愛咲優詩