「あんた、世の中をもっと勉強せなあかん」イオンを創った女・小嶋千鶴子の経営哲学
公開日:2019/1/31
実業家・小嶋千鶴子氏は1916年(大正5年)三重県四日市市の生まれで、今年3月の誕生日には103歳を迎える。彼女は家業の「岡田屋呉服店」を「ジャスコ」へ、さらには「イオングループ」へと発展させた功労者だ。
『イオンを創った女』(プレジデント社)の著者・東海友和氏は、そんな彼女を間近で見ながら働いてきたひとり。東海氏はかつて岡田屋(現イオン株式会社)にて人事教育を中心に多くの分野で活躍し、現在は独立しコンサル事業を行っている。
小嶋千鶴子氏は、イオングループの元経営者である。イオン名誉会長であり彼女の実弟である岡田卓也氏はこう述べた。「姉、千鶴子がいたからこそ、現在のイオンの繁栄があることは間違いありません」。彼女は家業を企業へ、企業をさらに産業へと発展させるという類まれなる経営手腕を持っている。数々の合併、優れた人事・組織経営をして人々は彼女を「人事・組織専門経営のレジェンド」と呼ぶ。
彼女はいつでも「人」の持つ力に注目していた。
成功する人は必ず自分のビジョンをもっている。そしてそれに向けて自分の中にある能力を上手に引き出している。自分のもつ潜在能力を100パーセント活用できれば、だれでも自分の思うとおりになれるということである。
小嶋氏は従業員をつかまえては「君は自分の『教育』にどれだけお金と時間をつかっているのか?」「貯蓄はあるのか?」「将来にむけてどのような準備をしているのか?」とよく尋ねていたという。彼女はあらゆる物事に「長期的」かつ「具体的」なビジョンを持っていた。限られた時間とお金をどう配分してどう力をつけるか。それが成功する者の視点であると考えていた。
彼女は女性の社会進出にも一役買った。まだ日本では「パートタイマー」という言葉がない時代に、子育てを終えた女性たちの募集を実施した。それから数年後、今度は大卒女子の大量採用を行った。だからといって彼女がウーマンリブ(女性解放運動)の風潮に賛同しているわけでもなかった。意欲と能力の基準を満たしていれば、性別、国籍、年齢、学歴に関係なく採用や任用・登用を行っていた。新聞記者たちが彼女に「女性の人事担当常務だから女性の採用に熱心ですね」「(同性に)理解がありますね」などと言うと、「あんた世の中をもっと勉強せなあかん。私が女性だからといってなんにも関係あらへん」と不愉快そうに応対していたという。
それらの視点に対して著者は「社会で生き抜く力については、要は、能力と意欲の問題で、男も女も同じということである」という見解を述べている。小嶋千鶴子氏が現役を退任してから約40年が過ぎようとしているが、実際は、その人となりや業績があまり次代に継承されていないという。その理由は2つ。彼女が裏方・補佐役に徹していたことと、彼女の持つあまりに強い個性が受け入れられにくかったから。そのかわりに彼女はとても力強かった。
彼女の「経営人事」「戦略人事」の哲学はいまでも多くのビジネスパーソンたちを動かし続けている。いま我々が働く環境には、こういった偉大な人物の活躍が礎としてあることをぜひ学んでおきたいものだ。
文=ジョセート