平成をまたいだ人気長期連載! 自由で明るい父子家庭の奮闘に心底癒される
公開日:2019/1/31
ふとした瞬間に「疲れた……」とつぶやいてしまうこともありますよね。疲れを癒やす方法は人それぞれですが、疲れたあなたを包み込む「世界観が優しすぎるマンガ」で心をリフレッシュしてみませんか?
「生きにくい」と感じているあなたに寄り添ってくれる、優しい大人の童話を紹介しよう。それが『Papa told me(パパ トールド ミー)』(榛野なな恵/集英社)だ。
本作品は1987年から連載され現在も不定期に連載され続けている。ほぼ平成をまたいだ30年以上の連載の中で、絵柄は多少変わった。しかし描かれているテーマは終始一貫している。それは硬直した世間一般の常識への違和感と、登場人物それぞれの幸せの形だ。
■自分たちにとっての幸せを知る、父と娘の物語
主人公の的場知世(ちせ)は生まれてすぐに母を亡くし、作家である父の信吉と二人暮らし。この知世ちゃんの視点で大人の社会や、悩んだり葛藤したりする人々が描かれる。
基本的には優しい作品世界で、嫌なキャラクターもほとんど登場しない。しかし父子家庭である的場家は、「寂しいでしょう」「お辛いわね」などと色々言われることもある。それでもめげることなどなく、知世ちゃんは大好きな父親と二人なことを誇りに思う。時には小学生離れした弁舌で高らかに宣言する。「私たちは自由で幸せである」と。
また思わず書き留めておきたくなるような詩的なセリフや、気持ちのもやもやが晴れるようなエピソードが楽しめるのも本作の魅力だ。図書館の木が意識を持って知世ちゃんと会話するものや、不思議の国のアリスを意識したものなどメルヘンな話もある。そして信吉の妹で「独身バリキャリ」な百合子が、仕事や人生に向き合う話も定期的に語られる。もちろんこれらも知世ちゃんを中心に語られていく。
■私たちにエールをくれる、聡明すぎる美少女
やはり『Papa told me』は知世ちゃんのキャラクターが全てと言ってもいいかもしれない。容姿端麗で精神年齢は高い。性格は明るく社交性もあり、コミュニケーション能力も高い。父親はイケメンの作家で、都会に住み、地下鉄に乗って私立小学校へ通い成績も優秀。絵もコンクールに入賞するほど上手で、親に似て文才もある。
まるで非の打ち所がないスーパーな子供のようだが、前述の通り母親を亡くしていることが、的場家に影を落としている(ように感じる)。
父と二人でしっかり生きなければ、父が親戚や世の中から批判を受ける。「やっぱり父子家庭だし大変」「幸せじゃない」なんて決して言われたくない。そんな知世ちゃんの健気な想いが読み取れるから、彼女の言動に嫌味を感じることはなく、感情移入できる。かといってただ健気さで涙を誘うわけではない。知世ちゃんはいつも強くあろうとしている。そしてもちろん日々を楽しく幸せに過ごそうとしている。
そんな彼女と出会った大人や子供が優しく癒され、(時には厳しい言葉をかけられ)励まされていくのだ。
■知世ちゃんに叱られる? 癒される?
親や世間が認めるような仕事につき、結婚し、家を買い、子を育てる。そういう人生が絶対的に正しい、という世の中の風潮は変わらずある。それは本作の連載が開始した30年以上前とほとんど変化がないように思える。そうできない、しない人々はなんとなく生きづらい。このように現実はメインルートから外れた人々には優しくない。それでもなんとかやっていこうとする中で、お疲れな人たちにぜひ読んでほしい。知世ちゃんが愛する美しく優しい世界が、あなたを救ってくれるはずだ。
優しく癒される? ただひょっとしたら、かわいい顔の知世ちゃんに毒舌で注意されるかもしれない。童話は意外に甘すぎないものだ。
文=古林恭