あなたの個人情報、ストーカーと執事のどちらに渡しますか? デジタル広告の最先端
公開日:2019/2/4
毎日、数えきれないほどの広告が私たちの元に届く。かつて、それはテレビCMが中心であったが、今やその主戦場はスマホだ。ホーム画面に並ぶアプリは、無料で利用できる代わりに、私たちの個人情報――検索履歴、購買履歴、位置情報などを蓄積し、それを基にユーザーに合った広告を打ち出す。
少し前までは、こうしたデジタル広告の精度はそれほど高くなかったが、広告の技術は日に日に進歩している。最近のデジタル広告は、ずいぶんとこちらの趣味趣向を“わかってくれている”気がしないだろうか。まだまだ完璧ではないかもしれないが、広告が的外れで不快なものである時代は確実に終わりつつあるようだ。本書『Tapスマホで買ってしまう9つの理由』(アニンディヤ・ゴーシュ:著、加藤万里子:訳/日経BP社)は、こうしたデジタル広告の進歩を、次のように表現している。
企業は、スマートフォンをわたしたちのストーカーではなく、自分専用のコンシェルジュや執事に変えることができるのだ。
“ストーカー”から“執事”へ。このたとえは、まさにデータを取り巻く問題を端的に表している。ストーカーも執事も、私たちの個人情報をうまく集める存在だろう。
だが、もしそれが“ストーカー”の手に渡ってしまえば、興味のない広告がしつこく送られる、あるいは、情報漏えいやアカウント乗っ取りなどのリスクも生まれる。一方で、信頼できる“執事”に個人情報を預ければ、広告を通じて私たちの潜在的な欲求を満たしてくれる。しかも、大事な秘密は外からきちんと守ったままで、だ。これからの消費者は、ただ流されるままに便利なサービスを利用するのではなく、主体的に「どのサービスに、どこまで個人情報を教えるか?」を考え判断する必要がある。
■私たちはなぜ買い物をするのか? を客観的に考えるチャンス
本書は、データに関する最新の研究を基に、私たちの購買行動を決定づける9つの要因を解説する。
状況(コンテクスト)――何が起きているのか?
場所(ロケーション)――なぜ位置情報は重要なのか?
時間――味方につけるべきもの
顕著性――顧客の目を引く
混雑度――なぜ混んでいることが重要なのか?
行動履歴――軌跡を明らかにする
社会的関係――誰と一緒にいるか
天気――完璧な嵐を発生させる
テック・ミックス――端末と広告フォーマットを組み合わせる
私たちの手のひらの上にいる“執事”たちは、集めたデータをどう利用しているのだろうか。本書の内容は、企業でマーケティングや広告に従事する人たちにとって極めて実践的なものである。それと同時に、消費者の側からしても、知らないままではいられない話だ。
本書を読めば、自分の個人情報が広告へと変わる過程を知ることができる。それは、消費者が主体的にサービスを選ぶ時代において、必要不可欠な知識ではないだろうか。
文=中川 凌