【ひとめ惚れ大賞】報道からは見えてこない 本当のアメリカが 書かれています『アメリカ死にかけ物語』訳者・小澤身和子インタビュー
公開日:2019/2/8
本書は著者のリンが、アメリカの様々な町に出かけて実際に見たものごとや出会った人びとの声が書かれています。リンが書くのは、映画のスクリーンにはなかなか映らない、空港周辺の整備された景色からは見えてこない、しかし本当は多くの国民が生きているリアルなアメリカです。いうなれば貧困層の話なのですが、リンの視点はつねに彼らと同じ高さにある。だから出会った人びとは、心を開いて本音を話すのでしょう。彼は日本でも、とある労働者街を訪れていたのですが、そこでも地元の人たちと一緒に写真を撮ったりしていて。その写真を見せてもらったら、言葉なんかほとんど通じていないはずなのに、完全に溶け込んでいて。彼はそういう人なんです。
本書の原題は『Postcards from the End of America』。原文は語りかけるようなフランクな口調で書かれているので、訳すときもテンポに気をつけつつ、なるべく気さくな雰囲気が出るようにしたつもりです。
リンがその土地の酒場に出かけて、ビールを奢りながら、話を聞く―出来事的にはどの章も似ているんです。にもかかわらず、とにかく読ませる。さすが作家であり、詩人だなと。
登場する人びとの多くがつらいことがたくさんある人生を送っているのは間違いありませんが、悲惨さだけでなく、むしろその中でたくましく生きる力が浮かび上がってきますよね。本書を読むと、改めて人の生きる意味とは、幸せとはなんだろうと考えさせられます。
リンは人びとに寄り添うのですが、決して感情的にはならない。いつも冷静で優しい視線を等しく投げかけています。本書はアメリカの権威に対する批判でもありますが、どんな人にも人生という物語があることを再認識させてくれる本だと思います。
|| お話を訊いた人 ||
小澤身和子さん 東京大学大学院博士課程満期終了(英米文学)後、英国UCLへ留学。『クーリエ・ジャポン』の編集者を経て、海外メディアの取材コーディネーターや通訳として活躍。『新潮』2月号にディン氏が日本滞在を綴ったエッセイの翻訳が掲載予定。
取材・文/田中 裕 写真/首藤幹夫 撮影協力:蜂天国
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