1人暮らしをする4歳児! 大人顔負けの生活力をもつコタローの物語『コタローは1人暮らし』

マンガ

更新日:2019/4/5

コタローは1人暮らし
『コタローは1人暮らし』(津村マミ/小学館)

 累計40万部を突破した話題のハートフルストーリー、『コタローは1人暮らし』(津村マミ/小学館)をご存じだろうか。想像してみてほしい。自分が住むアパートの隣の部屋から4歳の男の子がやって来て、引っ越しの挨拶をしてくる。その子は1人で住むのだという…。

 2019年1月に5巻が発売され、ますます盛り上がる本作をレビューしていく。

1人で暮らす4歳児は、ポンコツな大人たちより余程まとも!

 あるアパートにコタローという4歳の少年が引っ越してきた。無表情でなぜか口調は殿様、自分のことを「わらわ」と言う。この不思議な少年はなんと1人暮らしをするという。

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 心配する周りをよそに、大人びた言動と思考でコミュニケーションをとり、炊事や洗濯などの家事はそつなくこなすコタロー。

 彼は同じアパートに住む、ちょっと訳ありな大人たちよりも余程しっかりしている。まったく4歳児とは思えない。同じアパートの住人たちは、コタローの隣人で売れない漫画家の狩野、彼氏に金をせびられるホステスの美月、離婚した後、子供となかなか会えない田丸だ。
 彼らはコタローを放っておけず、住人みんなでサポートしていく。この中で狩野とは友人のような、兄弟のような、そして親子のような関係になるのだ。

 1人暮らしの4歳児とちょっと駄目な大人たちとのやり取りは、絶妙なおかしみがある。

 本作につけられているコピーは“独居4歳児コメディー”だ。だが『コタローは1人暮らし』は、ただ笑えてあたたかい気持ちになるだけの物語ではないのである。

号泣必至! 徐々に明らかになっていくコタローの過去

 まず4歳の男児がこんなに大人じゃない、そもそも子供が1人暮らししていいわけない。そんな意見はやぼだ。

 偶然にも、この記事を書いている私には4歳になったばかりの息子がいる。確かに現実のこの年代では、まだまだ善悪判断や大人との相互理解は難しい(個人差はあるだろうが)。

 それでも私はコタローを健気だと感じ、胸を締め付けられるエピソードの数々に引き込まれ、こみ上げるものがあった。

 コタローがなぜ4歳児とは思えない生活力を備えた子供なのか、そして1人暮らしをする背景。これらは物語が進む中で徐々に明らかになっていく。

 ネタバレを避けたいので詳細はここには書かない。ただひとつ言えるのは、コタローは「正しく子供でいられなかったから、大人びてしまった」ということだ。

 コタローの無表情の理由や抱えているトラウマ。彼の母親の居場所。そして父親との関係。これらの疑問の答えを知った時、読んだあなたは涙するに違いない。

「1人暮らしができてしまう4歳児」というぶっ飛んだ設定も思わず納得できてしまう、コタローの泣ける過去をぜひ確かめてみてほしい。

引っ越してきたのはコタローの過去にかかわった男

 最新刊5巻のエピソードは、コタローの過去を垣間見られるエピソードが続く。「コタローと同じ組の園児が描いた、刺青が入った父親の絵の話」。「スマートフォンはすごいと感じるコタローが、大きくなったらスマホになりたいと言う話」。「コタローがメイド喫茶に通う話」。「幼稚園で友達の粗相を片付ける理由の話」などだ。

 そしてこの巻からは、コタローが「母上ゆーわく(誘惑)男」「チクリ男」と叫びののしる謎の男、宇田が登場しアパートの住人になる。宇田とコタローとの関係、引っ越してきたその目的が描かれる。

 コタローと、周りの優しく愉快な大人たちとの物語は、ついに核心に近づいてきた印象だ。コメディー風だが実は重厚なドラマで泣ける『コタローは1人暮らし』。もしご存じでなかったならば、この機会にぜひ読んでみてほしい。

文=古林恭