正解率10%の3択クイズにあなたは正解できる?
更新日:2019/2/21
読者は以下の2問に正解できるだろうか?
【質問1】現在、低所得国に暮らす女子の何割が初等教育を修了するでしょう?
A.20%
B.40%
C.60%【質問3】世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年間でどう変わったでしょう?
A.約2倍になった
B.あまり変わっていない
C.半分になった
多くの人が両方とも「A」を選択するはずだ。記事を書く私も同じだった。しかし正解はどちらも「C」。悲観しがちなこの世界は、実は少しずつ良くなっている。
私たちは、私たちが思う以上に「思い込み」を抱えて生きている。情報過多の社会で「偏向報道」と揶揄されるマスメディアのニュースから「真実」を見極め、考え方に偏りなく生きている…つもりなのだ。実際はすべての人になにかしらの偏りがある。政治、経済、貧困、エンタメ、人生や恋愛に対する考え方まで、必ずどこか偏る。
人間は、人間が思っている以上に「ドラマチックな本能」を持っていて、「ドラマチックに世界を見よう」とする。私たちはそれに気がつき、もっと冷静に世界を見つめなければならない。そうでないといつか大きな失敗をする。世界中で100万部を超えた名著『FACTFULNESS 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド:著、上杉周作、関美和:訳/日経BP社)は、そう指摘する。
冒頭の2問は、普通に生活をする私たちだけでなく、ジャーナリストや政治家、様々な分野の専門家でさえ間違う。著者が日本で「質問3」を出題したところ、わずか10%の人しか正解できなかったという。正解率3割程度の、確率論的に正解を導き出すチンパンジーより割合が低い。
なぜこんなことが起きるのか? それは私たちの持つ「10の本能」が関係する。
たとえば世界が分断されているという思い込み「分断本能」。世界には200以上の国々があり、日本は「先進国」に位置する。そしてアフリカや東南アジアなど、その日の暮らしさえ満足に送れない人々がたくさんいる国は「途上国」と表現してきた。
ところがこの思い込みは、1900年代半ばの話。それから少しずつ世界中で「中所得」とされる「1日に4ドル以上稼ぐ人々」が増加し、現在では約50億人に達した。私たちが思い描く「途上国」は年々、先進国と途上国の間に位置する「中間」へ姿を変えていったのだ。この事実を私たちは知ろうともせず、いまだに世界には今日の生活もままならない大勢の人々が空腹に苦しんでいると、「先進国」と「途上国」に「分断」して考える。
人は極端な話に興味を持ちやすいし、極端なほうが記憶に残りやすい。けれども両極端の視点では、真実を導き出すことはできない。正しい解決策を打てない。大金持ちと貧困に苦しむ人、最高の政権と最悪の政権、暴力をふるう親とふるわない親、真面目に働くアルバイトと不真面目な動画を投稿するアルバイト…。どんな物事も多くはその間にある。
本書は私たちの凝り固まった視点や考え方を正しい方向に導いてくれる。誰もが持つ「10の本能」を知ることで、世界を正しく見るようになり、正しい判断を行うきっかけを与えてくれるのだ。
常に物事は良い方向と悪い方向へ両立して進んでいるのに、ネガティブなことだけ耳に残って実際より悪いイメージを持つ「ネガティブ本能」。たったひとつの数字が真実であるかのように勘違いして、ほかの数字で比較を行わない「過大視本能」。誰かを責めることでほかの原因に目が向かなくなり、将来も同じ間違いを犯す「犯人探し本能」。
本書で解説されるどの本能も、なにかしら思い当たるはずだ。特に「犯人探し本能」は、SNSが発達した現在でひんぱんに行われている。
誰もが「世界がもっと良くなってほしい」と願っているのは間違いない。けれども手段や行動がちょっぴり間違っている。本書は間違いを生み出す私たちの「思い込み」にメスを入れ、的確なアドバイスを与え、明日の世界をもう少し良くする1冊だ。
文=いのうえゆきひろ