売れない作家は即切り捨て!? 担当作家をサンドバッグ扱い…!? アンチ編集者アンソロジー
公開日:2019/2/17
「漫画家」と「編集者」と聞くと、テレビドラマや人気マンガの影響もあり、二人三脚で作品を作り上げる、表裏一体のような関係だと想像する人は多いのではないだろうか? しかし、どの職場や取引先にも「合わない……」と感じる人間がいるように、現実は、彼らの関係がいつも良好というわけでもないようだ。
『クソ編集にこんなことされました。 アンソロジーコミック』(一迅社)は、漫画家を絶望の淵に追い詰める「クソ編集」が、フィクションの体で、10人の漫画家により描かれている作品だ。
担当作家をサンドバッグ扱いした挙句、モラハラ発言をする編集者や、「読者へのサービス」という言葉を盾に、大筋の話に全く関係ない“お色気シーン”の改善を執拗に迫る編集者など、開いた口が塞がらないような猛者たちが続々と登場する。
中でも最も印象に残ったのが、『黒いラブレター』『恋と成』『ダンジョンのほとりの宿屋の親父』などの作品でお馴染み、東谷文仁先生の「ボツ」である。
物語は、初めてマンガの持ち込みをする青年が、緊張しながら出版社を訪れるところからはじまる。
「ソッコーで「ボツ」って言われるみたいな話もよく聞くし… そう言われても傷つかないよう心の準備だけはしとこう」
そんなことを呟きながら個室ブースで編集者を待っていると、そこに現れた男性は、ドアを開けた瞬間「ボツ」と言い放ったのだ……!
そして次々と、新人漫画家のやる気を削ぐような出版社の悪評を語り始める。
編集者は、売れている漫画家には何も言えないが、新人にはそのストレスをぶつけるため、権力を乱用し、上からボロクソに言っていること。漫画家は売れてくれれば会社も潤うし、編集者の出世にも繋がるから嫌いなわけではないが「低学歴のクソ野郎共が」とは思っていること。おまけに、
「漫画家なんて全員頭がおかしいんだ! まず漫画で食っていこうなんて思考回路の奴がマトモなわけがない!」
と雄叫びを上げ、漫画家がミュージシャンや芸能関係を目指す人間と違い、売れない限り圧倒的にモテない職業であることを力説するのである。
このマンガは20ページにも満たないのだが、最後まで読むと、編集者は自分の高給だけはしっかり確保し、売れない作家はポイ捨て、極悪非道の冷血漢で、漫画家になっても売れない限り良いことなんて一つもないように思えてくる。
だが、滅茶苦茶なことを言うこの男性を決して責めることのできない驚愕の結末が待っているので、ぜひ期待して読んでみてほしい。
本書を読むと、大好きなマンガを描く作家さんたちが、制作だけではなく、編集者との攻防にこれほどの心血を注いでいるのかと、心配になってくる。だが、作家側もやられっ放しではなく「呪い」や「作品に登場させる」などの手を使って反撃を繰り出すので、思わずうなってしまった。帯には「※もちろんフィクションです」と記されているが、漫画家の涙の跡がありありと見えて仕方がないような気がするアンソロジーだ。彼らの隠された苦労の一端を、覗いてみてほしい。
文=さゆ