遺産を巡って“泥沼の争い”――「相続」を「争続」にしないためにコレだけはしよう!
公開日:2019/2/20
「あいつは財産を隠しているようだ」――税務署に寄せられる、親族からの密告が止まらない。『税務署・税理士は教えてくれない「相続税」超基本』(KADOKAWA)を著した元国税調査官の大村大次郎氏は「相続が“争続”にならないようにするためのポイントがある」と断言します。
遺産を相続する場合、相続税がいくらかかるかということに関心が行きがちですが、遺族間での「平和的な相続」ができるように最大限の配慮をしなくてはなりません。
というより、現実的にはこちらのほうが相続対策という意味では大きなトピックかもしれません。
「うちはそれほど財産もないし、子どもたちが遺産で揉めるようなことはない」と思っている方も多いでしょう。
しかし、「争族」が起こるのは大資産家の相続ばかりでは決してありません。ほんのわずかな遺産を巡って、親族が泥沼の争いをすることも多々あるのです。
ところで税務署という役所は、市民からの密告を公的に奨励しています。「あの人は脱税している」というような情報を知っていたら教えてほしいと、ホームページなどでも公示しているのです。
そして実際に税務署には、市民から様々な密告が寄せられますが、もっとも多いのが「親族からの密告」です。
相続税に関するものが非常に多いのですが、その大半は、「誰誰は遺産を隠しているようだから調べてほしい」といったものです。遺産相続をしている親族のうち、誰かが誰かのことを疑っているのです。「あいつは遺産を隠している」と。それを税務署に調べてもらおうというわけです。
こういう情報のほとんどは、証拠もないようなガセネタです。そして、相続税の対象にならない少額の遺産しかないような親族からも、密告という形で情報が寄せられます。
逆に言えば「争族」というものは、それほど身近なものであり、誰にでも起こりやすいことだということです。
●「遺言書」だけでは不十分?
相続対策などの本では、よく「遺言書は絶対にあったほうがいい」というようなことが書かれています。確かに遺言書はあったほうがいいです。しかし、相続に関してイヤな話をさんざん聞いてきた元国税調査官の立場から言えば、遺言書だけでもまだ不十分だと言えます。
親は、相続資産の分配について、死ぬ前に子どもたちや配偶者ときちんと話し合っておくべきだと思います。
というのも、遺族が遺言書の内容に不満がある場合は、親族の中から訴える者が出てくるかもしれないからです。日本の民法では、遺言書のとおりになるのは遺産の半分までであり、残りの半分は、「遺留分」として法定相続人の権利が保障されています。親族の中で遺言書の内容に納得がいかなかった人がいた場合には、自分の遺留分は請求することができますし、実際、そういうケースはたくさんあるのです。
相続税は分配の方法によって遺族全体の税額は大きく変わるので、遺族全体が協力したほうが、相続税は安くなりますが、遺産の分配に関して遺族が納得しない場合は、相続税が高くかかるようになってしまうケースも出てきます。
だから、遺族の間で、遺産分配で揉めるということは、遺族全体にとって、大きな損となるのです。
だからこそ親は死ぬ前に、子どもや配偶者、親族などの前で、「これこれこういう理由で、こういう具合に遺産を分配したい」ということをはっきり言っておくべきです。そして、そのときに、不服がある者に対して、きちんと説得をし、納得させておくべきです。
これは、相続税対策で一番気を付けなくてはならないことだと言えます。
●「生前の財産分与」がどうしてこんなに重要なのか
そういう意味で、相続税対策において、「生前の財産分与」をしておくことは、非常に大事なポイントになります。
「生前の財産分与」とは、簡単に言えば、死ぬ前に自分の資産を親族などに分与しておくことです。
なぜ、この生前の財産分与が大事かというと、2つの大きな理由があります。
一つは、単純に「相続資産を減らせる」という理由です。相続税というのは、相続した資産にかかってくる税金ですので、生前に財産分与をしておいて、相続資産をなるべく少なくすることは、王道の相続税対策でもあります。
もう一つは、「争族」を防ぐ、という理由があります。
前述のように、遺産というのは、「争族」につながりやすいものです。そのときに、遺言書を書いたり、遺産の分配を家族間で話し合ったりすることも大切ですが、それでも完璧ではありません。
生前に家族や親族できちんと話し合っていても、やはり、いざ相続するという段階になったときに、揉めることはあるのです。
だから、もっともいいのは、生前に資産を分与してしまっておくこと、というわけです。
日本には贈与税という税金がありますので、そう簡単に資産を分与することはできませんが、この贈与税にも様々な控除制度がありますし、特例措置もあります。
これをうまく使って、なるべく生前に資産を分与しておくべきなのです。
ちょっとした小金持ちでも、たとえば2億~3億円までの資産であれば、10年もあればほとんど相続税がかからない程度にまで抑えることもできるでしょう。
なるべく早い段階から意識して、「平和的な相続」ができるように準備をしましょう。
もちろん、課税資産をなるべく減らして相続税がかからないようにすることも非常に大事ですが、それよりも何よりも、親族が揉めたり、その後没交渉になったりしてしまえば、遺産なんて何の意味もありませんからね。
【著者プロフィール】
大阪府出身。国税局で十年間、主に法人税担当調査官として勤務し、退職後、 経営コンサルタント、フリーライターとなる。執筆、ラジオ出演、テレビ番組の監修など幅広く活躍中。一方、学生のころよりお金や経済の歴史を研究し、別ペンネームで30冊を越える著作を発表している。