大学で社会学を専攻すると就職率が上がるって本当?
公開日:2019/2/22
貧困や部落問題など、日本には様々な社会問題がある。そのニュースを目にする度、私たちは誰かと議論をしたりSNSで声をあげたりする。では、その問題を誰が調査して突き止めたのかというと、「社会学者」というあまり存在の知られない人々のおかげだ。
『社会学はどこから来てどこへ行くのか』(岸政彦、北田暁大、筒井淳也、稲葉振一郎/有斐閣)は、日本の社会問題の最前線で調査を続ける4人の社会学者による、社会学のあり方や今後についての対談をまとめた書籍だ。正直に言えば、かなりマニアックな1冊。けれどもいざ読み進めてみるとなかなか面白い。
そもそも社会学とは、貧困、部落差別、労働問題、ホームレスの実態などについて、地道に社会調査を行う学問のことだ。社会で異変が起きたとき真っ先に現地に飛んで、フィールドワークや統計を使って調査・分析を行う。
本書はそんな社会学がどういうものかを詳細に解き明かし、この学問が抱える問題やあり方、今後について語る。内容はかなりマニアックで、素人が読むとまったくわからないところもある。ウェーバーという社会学の権威の話が出てきたり、マルクス主義を引き合いに出したり、社会学の知識や歴史的教養がないと真に中身を理解できないだろう。
しかし本書を読んで面白いと感じたのは、お堅いテーマなのにところどころで雑学を得られることだ。
たとえば大学で社会学を専攻すると就職率が上がるという。大学受験を控える高校生や学科選択を迫られる大学生には耳寄りな情報だ。もちろん将来的にはわからないが、ほかの学科より卒業後の“座布団”が多めに用意されているらしい。
また、日本のコンサル会社には優秀な人がいないという。雑な調査を行うことが多く、クライアントに「都合の良い」調査結果を見せることもあるとか。コンサル会社が発表する社会調査の結果はあんまりアテにならない…かも?
コンサル会社に2000万円の調査費用を出すくらいなら、大学で社会学を営む学者に500万円出したほうが、格段に精度の高いものが出てくる。あるページを読むと、「日本に優秀なコンサルタントがいないおかげで、世界中で死滅傾向にある社会学情勢の中、日本だけが例外的に生き残っている」と捉えられる部分もある。うーむ…キレキレの対談だ。
ちなみに新聞の世論調査はひどいものだそうで、専門家から見るとマスメディアの調査結果なんてロクなものがないようだ。…いかん話がそれた。そろそろ本論に戻りたい。
■社会学は何を行うのか?
社会学は主に2つのことを行う。1つは「時代診断」だ。「以前はこんな時代だったけど、今はこんな時代に変わりましたよ~」という調査と分析を行う。「マスコミから2ちゃんねるを経てSNSの時代へ」という感じ。この社会情勢の変化を受けて、政府や企業はどのように時代に対応するか考える。
そしてもう1つは、「なぜこんな制度や規範、人格類型が生き残ったのか」を調査・分析することだ。ある行為者がなんらかの形でその環境に適応するために「生きて」おり、それがどういうものなのかを調べて資料にまとめる。
しかしこれらの調査・分析は(優秀ではないが)コンサル会社や調査会社にもできてしまう。ならば社会学の意義とはなんだろう。本書の第1章の最後でこんなことが語られている。
たとえば生活保護を受けてるおっちゃんがパチンコをやってるとする。すると「パチンコばっかりやって」といって叩かれるわけですよね。でも、ホームレスのおっちゃんとか生活保護のおっちゃんに会って話を聞いてみると、なかなか辛いものがあって、そりゃ支給日にパチンコでダーッと使っちゃっても、しょうがないわな、みたいなふうに思うんですね。
現代はとても批判的な世の中になってしまった。誰かがルールやマナーを破ると猛烈に批判する。もちろん間違ったことを行うのはいけない。しかしもしかすると彼らにも理由があるかもしれない。
社会学はある人の事情や動機を「理解」するために、社会問題の「隣にそっと立って」調査する。お互いがお互いを理解し合って寛容になれる社会を目指す学問ではないか。そんな意義を語っているのだ。
そういう人たちに対して「なんだコイツだらしない奴だ」とか考える多くの人たちの中から「そうじゃない考え方だってある」っていう人を増やしていければ、大したものじゃないですか。社会学って。
今日も世の中のあちこちで問題が起きている。その実態を調査・分析して、社会に投げかける人々の存在をぜひ知ってほしい。単に社会問題を批判するだけでなく、なぜそんなことが起きたのか真に理解することが、私たちの理想的な社会につながる。本書はそんなことを考えさせてくれる。
文=いのうえゆきひろ