無期懲役でも面接可能の求人情報誌 『Chance!!』――「とにかくやらないと」創刊者・三宅晶子さんの思い

社会

更新日:2019/3/1

2019年3月1日発行の『Chance!!』Vol.5

 再チャレンジ可能な社会に!――「全社身元引受OK!! 全社寮完備!!」の大きな文字がふりがな付きで目に飛び込んでくる『Chance!!』は、そんな言葉をまるごと体現した無料求人情報誌だ。中をめくれば「一緒にがんばろう!」と経営者が熱いメッセージをよせ、募集要項には「応募可能残刑年数」「住居・食事サポート」など一般の求人では見慣れない項目も…。実はこの情報誌が配られているのは刑務所の中。「絶対にやり直す」という覚悟のある出所者と、そんな彼らを応援する企業をつなぐ役割を担う受刑者専用求人誌なのだ。

「こんな情報誌、知らなかった。こんなに採用企業もあるんだ!」と素直に驚いたダ・ヴィンチニュース編集部は、4年前から出所者支援事業をはじめたという出版元の(株)ヒューマン・コメディ代表・三宅晶子さんにお話をうかがった。

■出所者はやり直しがきかない!

――こんな情報誌があるとは知りませんでした。掲載企業はどんどん増えているんですか?

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 そうですね。ぽつぽつですが、毎号増えています。会社立ち上げ時は情報誌ではなく有料職業紹介事業からスタートしました。それこそ最初は自分の昔の友人を頼ったり、建設業界の集まりに行ったりして、営業でかき集めていました。中には受刑者を雇った経験のない企業もありました。今は営業はしていませんが、こうやってメディアに取り上げられることで連絡をいただくこともあります。

――なぜ受刑者支援の仕事をはじめたんですか?

 人が好きなので、人を励まして背中を押してあげるような人材育成や人材紹介の会社に転職しようと、2014年に一般企業を辞めたんですね。課題が多い人や、生きづらさを抱えた人にたくさん会うことが、その後の仕事につながるのではと思い、児童養護施設等をボランティアで手伝って、いろんな人の話を聞くことにしたんです。そんな中、受刑者支援の団体で「出所するとなかなかやり直しがきかない」という現実を聞きました。簡易宿泊所や漫喫、ネットカフェにとりあえず泊まりはするものの、住所がないと仕事は探せないし、所持金もなくて携帯も契約できない。短期間にわずかなお金を使い果たしてしまって、刑務所なら食べられるからと、ささいなものを盗んだりして刑務所に戻る人が非常に多い。それを聞いて愕然としました。

 そんな中で、2015年の4月に奄美大島の子供の施設で仲良くなった17歳の女の子が、福岡の少年院から手紙をくれたんです。施設での運動会の話とか他愛もないことを書いた手紙でしたが、それを読んだらもっと彼女と深く関わりたいと思ったんです。彼女はそこを出たら悪いことばっかりしていた元の奄美の施設に戻るしかなかったのもあり、彼女と養子縁組をして身元を引受けることにしました。どんな環境なら彼女が幸せか考えたら、私が彼女や彼女と似たような境遇の人たちが仕事を見つける支援をしていたら、彼女も嘘をつく必要がないと思いついたんです。過去があるからかえって親身に接することができたり誰かを励ましたりできて、過去が価値として輝くな、と。それで翌月の彼女の誕生日に会社を立ち上げて、そこから何をどうしようかと考え始めました。お金もコネもノウハウも、なにもないところからのスタートでしたね。

――職業紹介業から情報誌にした経緯は?

 法務省に行って「受刑者の職業紹介事業をしたい」と話をするんですが、一営利目的の企業に国が便宜をはかるわけにはいかないと言われてしまって、なかなか当社の存在を知らせる術がなかったんですね。2018年に情報誌を出すまでは、全部で20人くらいしか面接もできませんでした。もっと方法はないものかと思っていたときに、ある協力企業さんが作った高校生向けのわかりやすい就職の本を見せていただいたんですが、「これ、いいんじゃない?」って。出所した方が食堂にハローワークの求人票は貼ってあるけどわからなくて見なかったと言っていたし、中ではネットも見られないわけですから、こういうのならわかりやすいだろうと。もう強行突破で、「作って配っちまえ!」って(笑)。

――強行突破されたんですか?

 いえ、最初は無許可で配るつもりだったんですけど、ボランティアで就労支援をしている方から許可をとることを勧められたんです。その方は法務省とのパイプを持っていて、ダメだと思いながらその方と一緒に行ったら「まず、関東圏に配りましょう」ということになったんですよ。創刊号はまったく反応がなかったものの、3号までの8カ月では200人から手紙をいただきました。「こんな自分でもやり直すことはできるのでしょうか?」「こんな自分を採用してくれる会社はあるのでしょうか?」といった不安を綴ったものが多く、中には文通目的の方や訴訟の費用を貸してほしいという内容の手紙もあって、応募は70人くらい。採用にいたったのは28人ですね。

 現在、当社から全国239施設に送ってはいるものの、積極的に使ってくださる施設は10箇所もないんです。いろいろお願いはしているんですが難しく、今は受刑者支援の団体を通じて延べ1500人の受刑者に直接届けるようにしています。

■みんなのために闘った両親の影響

――すごく軽々とお話をされていますが、実際は大変なことの連続だったのかと。三宅さんのバイタリティがすごいです。

 うーん、常識がないんでしょうね(笑)。こういう手順をふむべき、とか、ここでダメならやめたほうがいいとか、そういうのがないというか。頭のネジの問題もありますが、おそらく亡くなった両親の影響もあります。両親ともに銀行員だったんですけど、母は男女差別について、父は定年制延長についてそれぞれ自分の銀行を相手に裁判を起こすような人たちで。母は勝って、父は11年かけて争って最高裁で負けました。それで「日本がダメなら世界に出る」と、2年後にジュネーブの国連人権小委員会で日本の労働者代表としてスピーチをして、国連から日本政府に勧告が出ることにつながったんです。2人とも今の日本の社会に少し影響を残したんじゃないかと思っています。

――ご両親は「おかしいと思ったら声をあげる」とか「おそれない」とか、そういう姿勢を持っていらしたんですね。

 はい。しかもどれも自分たちのためじゃないんです。「みんなが困る」という視点での行動なんですよね。私のやっていることなんて、足許にもおよびません。

――ちなみに中高時代の三宅さんは非行に走ったこともあったそうですね…。

 中学の途中から学校に行きませんでしたね。反抗というよりも単純に不良に憧れていて、家出を繰り返して高校もすぐに退学になりました。当時、入院していた母に父と退学の報告に行ったら、母がさめざめと泣いたんですよ。すごく悪いことをした気になって、「自分の人生は傾いてるな」って実感したんですけど、どこかで自分は将来、これを必ず「ネタ」に変えてみせるとも思っていて。そのあと飲食店で社員として働き出したんですが、あるとき父親から「これ、読んでみな」とデカルトの『方法序説』(岩波文庫)を渡されたんですね。翌日から休憩に読み始めたんですが、何を書いてあるかさっぱりわからない。大学に入れば読めるようになるんじゃないかと、高校に入り直して勉強しました。

――その後、大学に進学されたんですよね。

 はい。とはいえ予備校でも遊んでしまってしばらくうろうろして、22歳の冬季講習で出会った英語の先生に影響されて、やっと「英語教師になる」という目標ができました。怒られることを覚悟で、父に「目標ができました。遊びたおしてしまったんですが、もう1年予備校に行かせてくれませんか?」と頼んだら、「よかったなあ、目標ができて」と。「うん」ってその場では答えて、自分の部屋にあがってから号泣しました。

――お父さんは、三宅さんを信じてらっしゃったんですね。

 そうですね。それがあるから、そんなに私は道を踏み外さなかったんだと思います。ただ、デカルトはいまだに読めていません。よし、今度こそと思っても、去年も読めなかった。これは来世に持ち越すんじゃないかと(笑)。

■やらないと気が済まないエネルギーをプラスに

――過去のやんちゃな経験、度胸のよさは今の仕事に役立ちませんか?

 とにかくやらないと気が済まないタイプなんですが、そういうのって受刑者たちにも共通しているエネルギーなんじゃないかと思うんです。やろうと思ったら、いい悪いは別にしてやってしまうっていう。それを悪いことではない方向に切り替えたらすごくよくなるだろうし、そうできると思っています。

――たとえば少年院にいた娘さんには、どんなふうに声をかけているんですか?

 説教くさいと思いつつ、困難を感じたら「どう成長させてくれるんだろう?」って思いな、と。辛いこともしんどいことも、まず「ありがとう」と思うこと。それで「何を学ばせてくれるんだろう?」と考えたら、案外開けるよって。あとは人を頼れということですね。困ったとき悩んだとき、一緒に考えてくれる人がいるのに、なかなかみんなそれができません。実は私も苦手なので、自分に言い聞かせていることでもあります。

――最後にこれからの目標を教えてください。

 国や地方自治体にもう少し協力してもらえるように働きかけたいですね。実績ができるまでは大人しくしていましたが、そろそろちょっと「黙ってねえぞ」って(笑)。その意味では、こうやってメディアの力をお借りするのも大事なことなんです。いずれは都道府県ごとに全業種が載った電話帳みたいな求人誌にしたいんです。そうしたら彼らも選べますから。私たちは転職できますけど、彼らは合わないからと飛び出したら家を失います。本当は選んでいる場合じゃないけれど、でも「合わないなら、ここに帰ってきて考えたら?」という中間的な場も作っていけたらいいと思っています。

――さらなる「再チャレンジ」の応援ですね! ちなみに先ほどの「そろそろ黙ってねえぞ」っていうの、グッときました。適切にケンカしていただきたいと(笑)。

 あはは、ヤンキーのぞいちゃいました?! ケンカの買い方はよくわかっているので、大丈夫です(笑)。

取材・文=荒井理恵

(株)ヒューマン・コメディ公式URL
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