病気になってしまったら!? 病院・医者・薬局の選び方とは?
更新日:2019/3/1
以前に私が薬局で事務員をしていた頃、病院から発行された処方箋を、個人情報だからと受付に提出するのを拒む患者さんがいて困ったことがある。さすがにそんな極端なケースは一回だけだったが、初めて訪れた患者さんに本人確認のための名前と住所の記帳を求めると、やはり個人情報を理由に断られるのは珍しくなかった。確かに個人情報の流出を警戒するのは必要であるものの、自分自身の健康に責任を持つセルフメディケーションのためには、個人情報を積極的に医療者に伝えるのが有益なのだと、読者に広く知ってもらいたいと思い、この『医者・病院・薬局 失敗しない選び方・考え方 ―病気でも「健康」に生きるために』(鈴木信行/さくら舎)を選んだ。
著者は先天性の「二分脊椎」という疾患により、膀胱や大腸の動きが鈍い「排泄障害」があり、下肢の「運動機能障害」のため歩行時には杖が必要で、20代のときには発症率が10万人に1人とされる「精巣がん」にかかり、40代になると今度は「甲状腺がん」を発症し加療中という身。しかし、13年間にわたり製薬会社で薬の研究にたずさわってきた著者は、現在は患者と医療者がともに互いを理解する交流の場である「患医ねっと」の代表を務め、講演や研修活動を精力的に行なっている。
本書は、ボタンを押せば商品が出てくる自動販売機のようなハウツー本ではない。どちらかといえば、理想的な対人関係を築くための指南書に近いだろう。患者が人間であるように、医療者もまた人間であるから、たとえば病院や薬局に行ったさいに、あとはお任せという態度では自分の健康を任せられる関係になどなれるはずもない。本書では、「情報が欲しければ、情報発信すること」をすすめていて、「お薬手帳を一冊用意してほしい」と述べている。お薬手帳というと、処方された薬を記録するものと限定的に考えている人は多いだろうが、著者は「健康手帳」として活用するためにA5サイズのノートを使っており、健康保険証や病院の診察カードのほか、健康診断結果なども一緒に管理しているという。
では、処方された薬の記録以外に何を書き記すのかというと、「医師や薬剤師に聞きたい、言いたいこと」や「自分の身体の変調や気になること」などである。会う前にはあれこれ考えていても、いざ医療者と接すると忘れてしまいがちだからだ。そして、医療者の前での心構えは「記者の気分になるといい」と説き、分からないことがあれば質問をしてメモを取り、レントゲンの画像などをスマホで写真に撮らせてもらえるか尋ねてみる。熱心な人には相手も親身になろうという心理がはたらくし、なにより医療者には患者が「何がわかっていて何を知らないのか」ということが分かるので、専門的な説明の内容が個人向けにカスタマイズされる。
また、著者は「要望書」を作成することもすすめている。甲状腺がんの治療で入院中に、毎日のように排便の回数を確認され、2~3日排便が無いと薬を使うといった対処法が検討されたそうだが、もとより排泄障害のため排便は数日に一回が著者にとっては普通のこと。しかし、患者が意思表示をしなければ「標準」に近づけるのが医療でもあるから、これは仕方のないこと。人と人は、「思う」だけでは分かり合えないのだ。本書には、著者が実際に病院に提出した要望書が参考に載っており、講演や執筆活動などのために声帯や視力、上肢機能への影響をできるだけ避けたい旨が記されていた。
さて、肝心の医療者や医療施設の選び方であるが、自分の話を親身に聞いてくれて、率直な意見を云ってくれる相手を探すことだ。そのためには、自分の生活スタイルや家族構成といった個人情報の開示も必要なのである。それができてこそ、本書の「医療者とのより深い付き合い方」や「薬局をより便利に使うコツ」などの具体的なアドバイスが役に立つだろう。
文=清水銀嶺