「武士の門限は午後6時」「お供は派遣スタッフ」…江戸時代の武士のリアルがおもしろい
更新日:2019/4/5
今から150年前の日本には刀を差し、ちょんまげを結った武士たちが当たり前のように存在していた。そうした武士の暮らしぶりは時代劇や映画などで取り上げられてはいるが、中には脚色が強いものもあり、実際のところ、彼らがどんな生活をしていたのかを知るのは難しいようにも思える。だが、『大江戸 武士の作法』(小和田哲男:監修/ジー・ビー)でなら、武士たちの真の姿や生き様に触れることができる。
歴史をテーマにした書籍はどうしても堅苦しく思えてしまうことが多いが、本書はイラストを用いながらユニークな視点で、武士のライフスタイルにスポットを当てている。
単身赴任や副業、賄賂など、私たちをあっと驚かせるような武士のリアルな生き様は時代劇よりもドラマティックなことも。読後には、あなたの中の武士のイメージが180度変わっていることだろう。
■1千万円もの賄賂を手にする武士も!
いつの時代でも、世の規則に逆らう不届きものは現れる。江戸時代には自分の地位を守るために献上物や献残品という名目で金品を贈る“賄賂”が常態化。中にはなんと、賄賂だけで年間3千両(現在の貨幣価値でおよそ1千万円)もの副収入を稼ぐ武士も存在していた。
賄賂はそもそも、参勤した大名が藩領の名産品を将軍家に献上する習わしがあったことから始まった。しかし、時代が下ると、献上する相手先が増え、いつしか藩領の名産品ではなく、目録と金子を「付届け」として手渡すようになっていったという。
「付届け」は、藩の中で外交官のような役割を担っていた留守居が贈る。留守居は町奉行に出向き、藩が揉め事を起こした時に面子が汚れないように処理してもらうため、「付届け」を渡す。その際は「馬代」や「太刀代」など、聞こえのいい名目で渡すことが暗黙のルールに。武士たちの間には「おかねを受け取るのは恥だ」という考えがあったため、こうした配慮がなされていた。
こうして、町奉行に渡った「付届け」は1年間保管された後、総額を算出。成績を踏まえて年末に与力や同心(共に江戸の見回りや監視を行っていた警察のような役職)に配られていたという。
そんな事実を知ると、時代劇によく出てくる悪代官も実在したのでは…?と思えてしまう。代官という役職は勘定奉行の部下に当たるため、権力を握っていたのは確かだ。しかし、代官は領民の重税を軽くするため、幕府へ掛け合うような人物が多く、時代劇に出てくるような悪代官は実在しなかったそう。
武士たちの暮らしを知ると、意外な真実も明らかとなり、本当の江戸の姿が見えてくるのだ。
■武士の門限は午後6時!
武士として生きていくには、守らなければならないルールもたくさんある。その中でもユニークなのが、武士にも門限があったということ。
武士は戦うことが本分。24時間体制で非常時に備えておく必要があるので、外泊は禁止。そして、午後6時までに帰宅することが決められていた。そのため、江戸時代後期に裕福な商人や庶民の間に到来した旅行ブームとも武士は無縁だったという。
現在の学生よりも厳しい門限を守っていた武士たち。彼らのルールを知ると、サムライとして生き続けることは想像以上に大変だったのかもしれないと感じさせられる。
戦いの中で生きる武士たちは気分をリフレッシュさせたいとき、どんな方法をとっていたのだろう…。そう、遠い江戸時代の彼らに思いを馳せたくなってしまうのだ。
■「お供」でわかる武士界の厳しさ
敵を欺くための「影武者」は、時代劇にもよく登場する。影武者は容貌がよく似ていなければいけないと思われがちだが、実はそうではなく、影武者となる「徒(かち)」は将軍とよく似た衣服を身につけることで敵を欺いていた。
徒はいわば、将軍の身辺警護の親衛隊。常に将軍の近くにいて、身を呈しながら将軍を守り抜くのが彼らの務めだった。
江戸時代にはなんと、600人もの徒が影武者となり、将軍の命を救っていたと言われている。
こんな風に、熱い信頼関係で結ばれていた徒と将軍がいる一方で、「お供」をレンタルする武士も存在していたのが江戸時代のおもしろいところ。武士の掟は「外出時は家臣を必ず連れて歩くこと」。しかし、旗本の最低ランクである2百石取りの武士たちは家臣を雇う余裕がないことも多かった。
そんな武士たちが頼りにしていたのが、お供のレンタルサービス。当時の江戸では「口入れ屋」という人材派遣業が人気を集めており、各々の都合に合わせて槍持ちなどの「三供」をレンタルできたのだ。
強い信頼関係にある将軍と徒とは真逆で、レンタルで一時の絆を育まなければいけない武士もいる…。この事実は、武士という世界で生き抜くことの厳しさを教えてくれるように思えてならない。
武士の知られざるライフスタイルや一生を丁寧に解説してくれる本書は、教科書には書かれていないリアルな江戸を知れる1冊。歴史って難しそうで苦手…と思っている方にこそ、おすすめしたい。
文=古川諭香