四半世紀の“腐女子史”がここに!一度でもBLの沼に浸ったことのあるお嬢様、必見です
更新日:2019/2/28
腐女子といえば、かみころすように「デュフフ」と笑い、年がら年中「攻め×受け」だけを考えている、「ホモが嫌いな女子なんていません!」な人達。ちょっと懐かしい言葉を入れてしまったが、古くさく思えて当然だ。なぜなら腐女子は常に進化する存在だからだ。
二次創作という行為は変わらないのに、発表の仕方も、ツールも場所も大きく変わる。そしてそのトレンドを使いこなすことに関して、腐女子の向上心は意識高い系でも及ばないのではないだろうか。
『31歳ゲームプログラマーが婚活するとこうなる』(新書館)などのコミックエッセイを描いた御手洗直子氏が、腐女子になって約25年。その実態を回顧する書籍を上梓。
『腐女子になって四半世紀経つとこうなる~底~懐古編』(一迅社)は、腐女子25年の黒歴史…いや、活動」を振り返った1冊になっている。
■「同人女ならHTML打てた」
腐女子の向上心は、デジタルもアナログも関係ない。例えば2000年代初頭は、ブログもなく自作HPの時代。ページを開くと「オルゴールMIDI」がなり、「おめでとうございます!あなたはこのページの1000人目の訪問者です」とカウンターが示される。
「モデム」がパソコンに外付けられていて、回線につないでいたインターネットの黎明期。信じられないことに「大抵の同人女ならHTML打てた」と御手洗氏は言う。オンナがパソコンに弱いなんて誰が言ったことやら。
さらに腐女子が使いこなすのは、HTMLだけではない。現在のようにオンデマンド印刷が一般的ではなかったとき、「版下」をつくって「オフセット印刷」で同人誌やグッズを製作していた。もちろんお金の掛からない「レインボー印刷」で。
なんのことやらサッパリわからない人もいるだろう。知らなくて当たり前だ。だが腐女子は液タブを操れるだけではない。同人の印刷、広報、ファン対応、すべてひとりでこなすのだ。腐女子のスペックの高さがうかがい知れるだろう。
■自家通販で1月3000件売りさばく
なんでもこなせる腐女子だが、ひとつだけできないことがあった。それは、未来予測だ。御手洗直子氏は、言う。当時の腐女子の活動は、「週刊誌連載とアナログ通販との戦い」だったと。
コミケなどのイベントを除いて、かつての同人誌は作者自らが販売する「自家通販」という方法が取られていた。作家は雑誌などに住所と本名を公開し、応募者は小為替を同封して同人誌の売買をしていたのだ。
だが、そこはアナログの世界。同人誌が届くまでに3カ月くらいかかることは当たり前だったという。つまり、通販の同人誌が届く前に「生きて」いたはずのキャラクターが、本誌の連載で「お亡くなり」になっていた、なんてこともあったという。
そんなときにはすかさずキャラの「追悼本」も出すという、商魂たくましい一面も持っている。では、どれくらい販売していたのか。御手洗氏の言葉を引用したい。
一番通販が多かったころは、1日に30〜150通。1カ月に1000〜3000通の通販が届いていました
ひと月に3000通! 当然ひとりでさばききれる量ではなく、友人達と3日ほど「通販合宿」を開いていたという。なんというバブル感!
■「オタクはシャケ」だから帰ってくる
でもこんな苦労は今では不要だ。かつては、『ファンロード』という雑誌などでファンを集めていたが、今ではpixivという便利なサービスも登場。自分の作品を載せることはもちろん、グッズ販売、同人誌制作もできるのだ。
同人作家とファンの距離はずっと縮まった。しかし変わらぬものもある。「オタクはシャケだから一定期間するとだいたい戻ってくる」という。
結婚出産で一時的にオタクを足ヌケするも、だいたいの腐女子は戻ってくる。今は子育てで忙しいかもしれない。しかし録画アニメを一気見したり、この記事の同人用語でクスリと笑ったりしたあなたは怪しい。
戻るその日にそなえ、ぜひ同書を一読することをおすすめする。若い腐女子とのギャップに直面する前に。
ちなみに同書の最後には、同人誌の歴史に名を刻む高河ゆん氏のインタビューが書き下ろされている。高河ゆん氏の「売上金をゴミ袋に入れて会場で捨てた」という伝説は、誠か嘘か。真実が明らかにされている。「大手」のすごさを実感できるだろう。読み応えのある1冊だ。
文=武藤徉子