大雑把女子 vs. 几帳面理系男子! 料理上手ははたしてどっち!?
公開日:2019/3/4
受験が終わり、無事に合格することができれば、春からは新生活がスタートする。ここで初めて「ひとり暮らし」を体験する人も多いだろうが、ひとりになって一番「大変」に感じることは何か。もちろん個人差はあると思うが、私の場合は「食事」だった。そしておそらくこの時期に、多くの人が「自炊」を経験することになるだろう。『お隣さんと今日のご飯』(コメ/ふゅーじょんぷろだくと)は大雑把な女子大生と理系な男子大学生が、それぞれ異なるアプローチで自炊を実践していく物語である。
地方から上京してきた美作文絵は、春から某大学に通う女子大生。その隣人・数科理一も、この春に同じ大学の理工学部に入学した男子大学生である。この隣人同士、ちょっとした問題があった。それは文絵の声がよく響くため、隣の理一にハッキリ聞こえてしまうのだ。「声デケーし高いし、耳につくんだよなー…」と理一は迷惑に感じてはいるが、なかなかいい出せない。そんなある日のこと、文絵の部屋から「夕飯」の話が聞こえてくる。そしてそれは、理一の作ろうとしていた料理と同じものだった。その料理とは「唐揚げ」なのだが、面白いのは両者の「料理法」である。
理系男子の理一はテキストに忠実で、料理本を片手に鶏肉を調味液に1時間漬けるところからスタート。しかし文絵は下味つけを10分程度で済ませてしまうと、唐揚げなのに「揚げません!!」と宣言。そしてトースターを使った「なんちゃって唐揚げ」を作り始める。ジップロックのような袋の中で下味をつけた鶏肉に、片栗粉やごま油などを随時投入して準備完了。全部袋の中で完成させてしまうのが面白い。そしてそれをアルミホイルで作った受け皿の上に載せ、トースターで15分焼くのである。対して理一は漬け込んだ鶏肉に、溶き卵と片栗粉に上新粉を混ぜた粉を丁寧につけていく。そして180度の油で1分半、一度取り出して4分休ませたあと、180度で40秒ほど二度揚げして仕上げ。なんというか、適当な文絵と教科書通りな理一が非常に対照的である。理一のほうは大体どんな味か予想できるが、文絵のほうは全然想像がつかない。「揚げてないにしてはちゃんと唐揚げやな!!」と本人は満足げなので、多分そうなのだろう。
理一にとって文絵の料理法が面白かったこともあり、理一は特にクレームをつけることもなく日々が過ぎていく。炊飯器でローストビーフを作ってみたり、カレーを作っていたら途中でカレールーがないことに気づき、軌道修正してシチューを作ってしまうなど、理一にとって文絵の料理は予想外の連続であった。しかしそんな日常に、突然の波乱が訪れる。文絵が炊飯器で作った「肉じゃが」をアレンジした料理を持って理一の部屋を訪問した際、理一はうっかり「この間、炊飯器で作ったやつ」とつぶやいてしまったのだ。それを聞いた文絵は「なぜ知ってるんですか?」と態度を一変。理一を「ストーカーかもしれない」と避けるようになる。文絵のあまりに露骨な避けっぷりにムカついた理一は、真実を告げることを決意。自分の声が隣にダダ漏れだったことを知らされた文絵は、ただ恥じいるばかりなのであった。
勘違いしてしまったと、文絵は理一に対し「お詫び」攻勢をかけるが、逆に迷惑がられてしまう。それでも理一の好物を「甘いもの」と気づいてデザートを作った結果、なんとか食べてもらうことに成功。ようやくふたりの関係は修復される。そしてなぜか、時々は互いの部屋で一緒に食事をするようになっていくのだ。……なるほど。本作は単なるグルメコミックではなく、恋愛物語でもあったのである。
理一と文絵の料理法はどちらがよいかと問われれば「人による」といわざるを得ないので、ひとり暮らしを始めたらいろいろ試してほしい。まあ隣人同士の恋模様は、漫画通りにはいかないかもしれないが……。
文=木谷誠