えっ!そうだったの…!? 日本人が“知りたくない”ニュースの裏側

社会

公開日:2019/3/6

『知りたくないではすまされない ニュースの裏側を見抜くためにこれだけは学んでおきたいこと』(江崎道朗/KADOKAWA)

 ドナルド・トランプ氏がヒラリー・クリントン氏を下して第45代アメリカ合衆国大統領に就任するとは、多くの日本人は予期していなかった。その後も、過激な発言を繰り返し何かと話題になっている人物であることから、アメリカは大丈夫なのかと思っている人は多いのではないだろうか。しかし、トランプ氏の当選を予想した一人の日本人がいる。『知りたくないではすまされない ニュースの裏側を見抜くためにこれだけは学んでおきたいこと』(KADOKAWA)の著者、江崎道朗氏だ。

 江崎氏は月刊誌の編集や団体職員、国会議員政策スタッフとして勤務した経験を持ち、安全保障や、インテリジェンス、近現代史などに通じる評論家だ。本書では、マスコミでほとんど報じられることのない、しかし、未来を読み解くためにはどうしても知っておかなければならない「現実」の読み解き方を伝授する。解説されている現実の中には、私たちの多くが目を背けたくなるような真実も含まれている。その一例が先の大統領選の予想だ。

 グローバル化の進む現代では、一国の政治状況が他国の一企業や個人にも大きな影響を及ぼすことになる。大統領選の予想を外した人の中には、大統領選に先んじてアメリカからの投資を引き上げてしまったために多額の損失を被った人もいるという。反対に正しい予想ができていれば、大きく利益を出すこともできた。なぜ日本人は世界の行方を見誤ってしまうのだろう。

advertisement

 どのような点が「知りたくないではすまされない」真実なのか紹介してみたい。1つ目は同盟国に対する考え方の違いだ。私たち日本人は、同盟国は同志だと信じている節がある。ところが著者いわく「いくら友好や世界平和を説こうが、どこの国も自国の国益が何よりも重要であることは歴史が教えている」という。それは安全保障条約を結んでいるアメリカも例外ではない。

 2つ目は、政府関係者やマスコミが一枚岩だとの信仰が幻想であることだ。たとえば、日米間の戦争に対する認識に違いがあることを知れば驚きを禁じ得ない人も多いのではないか。戦争といえば悲惨さが強調される日本とは異なり、アメリカ人にとっては勝利を祝うべきことなのだという。お祝いムード一色なのかと思えば、一方で日本に真珠湾攻撃を仕向け、広島と長崎への原爆投下、東京大空襲を実行したアメリカの行動を非難する人たちも同時に存在している。また、2005年には当時の大統領であるブッシュ氏がヤルタ会談を非難する演説を行っていることも紹介されている。ヤルタ会談とは、国連創設など戦後処理のあり方を話し合った会談だ。ヤルタ会談の当事者であるアメリカ大統領が、過去の自国の行動を非難しているのだ。

 3つ目は、こうしたニュースが日本のマスコミで大きく取り上げられることはなかった点である。トランプ氏のスキャンダルは熱心に報じているにもかかわらず、政策方針を表した一般教書演説がきちんと紹介されることは少ない。もう1つ日本人を驚かせるのは、トランプ氏の支持率の高さだろう。著者は「トランプ政権になって景気がよくなっているのは偶然ではない。経済政策がうまくいっている」と分析している。これは、報道は偏っており、それだけを信じていても真実を見ることができないということの例だ。日本には軍事知識を持っている記者が少ないことが原因の1つでもあるという。

 本書ではさまざまな「知りたくない」真実が語られているが、マスコミがそうした真実を報じないのは私たちにも責任があるだろう。テレビも新聞もボランティアではなく経済活動の一環として行っているものであることを考えると、視聴者や読者の興味関心に合わせる必要があるからだ。日本では海外ニュースが流れると視聴率が落ちるため、海外ニュースそのものが流れなくなったという話をどこかで聞いたことがある。面白くない、知りたくないですませている間に、もしかしたら取り返しのつかない事態に発展している可能性もある。真に憂慮すべきなのは、スキャンダルばかりを喜ぶ大衆の態度にあるのかもしれない。

文=いづつえり