「そんなにバラ撒いちゃって大丈夫?」スマホ決済キャンペーンの“ウラ”にある思惑
公開日:2019/3/5
2月12日にスマホ決済PayPayの第2弾“100億円キャンペーン”が始まった。最大還元率は20%で前回と変わらないものの、1回の支払いにおけるポイント付与の上限額は大幅に引き下げられた。高額の家電などを購入しても大量のポイントをゲットすることはできない代わりに、コンビニや近所の個人商店で毎日使い、少しずつポイントを貯めるのには向いている。まさに“熱狂”となった第1弾のキャンペーンと比べれば、盛り上がりには欠けるだろう。だが、この戦略には、まさにIT・金融企業各社がしのぎを削る“キャッシュレス覇権戦争”の現状がよく表れている。
本書『キャッシュレス覇権戦争』(岩田昭男/NHK出版)を読めば、キャッシュレス市場の現状から、その先に待つ“信用格差社会”の到来までをざっと見渡せる。著者は、これまでクレジットカードの取材を30年以上続けてきた、消費生活ジャーナリストの岩田昭男氏。前半で、政府の推進やQRコード決済の登場でにわかに盛り上がりを見せる市場を分析し、普及のカギになる個人商店の導入状況や実情を解説する。
■スマホ決済普及のカギを握るのは“個人商店”
QRコード決済は、「ピッ」とワンタッチするだけでいいSuicaなどに比べると、該当画面を開くなどの操作がワンクッション増えるため、利便性は一段落ちる。それでもQRコード決済がキャッシュレス化の大本命だと言われている理由は、店舗側のメリットの大きさだ。
これまで現金のみの取り扱いだった個人商店は、クレジットカードの手数料や、専用機器の購入などによる初期コストの大きさから、キャッシュレス化を見送ってきたという店舗が多い。だが、QRコード決済であれば、店側は印刷したQRコードをレジ脇に置いておくだけでよい。さらに、IT企業各社は、決済手数料を数年間無料にすると打ち出している。PayPayの第2弾キャンペーンは、こうした個人商店への普及を加速させ、市場拡大につながる効果があるだろう。
■信用格差、データ経済――キャッシュレス化の先にあるものは?
それにしても、PayPayに続き、LINE Payも20%の還元キャンペーンを始めるなど、各社の“大盤振る舞い”が目立つ。
「そんなにバラ撒いちゃって大丈夫なの?」と心配になってくるが、彼らの思惑はキャッシュレス化の“先”にあるといっていい。その正体は、顧客の購買履歴を収集することで得られる膨大な“データ”だ。
2017年9月、みずほ銀行とソフトバンクの合弁会社が「AIスコア・レンディング」というサービスを始めた。これは、個人情報やサービスの利用履歴を提供することで、AIが個人の信用スコアを算出するというもの。一方、ヤフーは「データの会社になる」ことを宣言しており、インターネット黎明期から蓄積してきたデータを、さまざまな分野の課題解決につなげ活かそうとしている。データを応用したビジネスのうまみを考えれば、各社が熱を入れるのも納得できるはずだ。
連日話題になるキャッシュレス決済。還元率の高いキャンペーンを利用してお得な買い物をするのも楽しいが、同時に「そのサービスは信用できるのか?」ということも意識しておきたい。私たちの個人情報は、毎日さまざまな企業によって集められ、新たなビジネスの種になっている。そこを意識していなければ、この変化の本質を見誤ってしまうだろう。
文=中川凌