吃音症で“死”すら考えた医師が語るその治療法は? 現在国内で1000人に1人が悩む症状
公開日:2019/3/7
自分の意思に反して言葉が発しづらくなる“吃音症”を抱える人たちは、日本国内でも1000人に1人の割合でいるという。日常的な「話す」という動作でさえストレスを抱えるというのは、生きていく上でも思い悩む場面が増えるのも想像がつく。
書籍『吃音の世界』(菊池良和/光文社)は、みずからも幼少期から吃音症を抱えながら、現在は専門医として活躍する医師がまとめた1冊。自身の体験も振り返りながら、吃音者たちの苦労を伝えている。
■吃音症には、「連発・伸発・難発」の3パターンがある
吃音と聞くと“どもる”という表現がよく連想されるが、細かくみると症状は3つに分類できるという。
ひとつは、話の始めに「ぼ、ぼ、ぼ、ぼくは」と繰り返してしまう「連発」と呼ばれるパターン。もうひとつは「ぼーーーくは」と音が伸びてしまう「伸発」と呼ばれるパターンで、さらに、言葉が出てくるまでに「………ぼくは」と間が空いてしまう「難発」というパターンもある。
ただ、すべての会話で症状が一貫して現れるわけではない。著者によると、人それぞれの置かれた環境、話す場面、言葉、相手などさまざまな条件により異なるという。
■吃音のつらさで“死”すら考えたという著者
幼少期から吃音に悩んでいた著者は、自身の体験を克明に記録する。さまざまなエピソードが紡がれている中で、特に印象に残ったのは吃音症によって“死”について考えるようになったと独白しているところだ。
著者が小学生だった当時、朝の挨拶で「はい、元気です」の一言目が思ったとおりに出てこず、苦しんだ経験を明かしている。いくつかの経験が積み重なり、たどり着いたのが「話す場面から逃げる」という選択肢。しかし、すべて回避することは難しく、一方で「どもってもいいんだよ」と教えてくれる人が誰もいないなかで巡ったのが、死への思いだった。
やがて病院へ頼ろうにも、その思いすらうまく伝えられなかったことから、「自分が医者になればいい」と患者へ寄り添う決断をした著者であるが、当時の苦悩はその文章からもひしひしと感じられる。
■治療で実際に使われるのは「リズム発話(メトロノーム法)」
医師の立場から、吃音症に対するさまざまな治療法についても、本書ではいくつも解説されている。そのうちのひとつに「吃音の軽減法」という項目があるので、内容を簡単に紹介してみたい。
実際に患者へすすめているというのが「リズム発話(メトロノーム法)」と呼ばれる治療法だ。メトロノームの「カチッ、カチッ、カチッ」という音に合わせてひとつずつ言葉を発するという方法で、主に先述の“連発”や“難発”に当てはまる患者に対して用いられる。
吃音のある人は自分で話し始めのタイミングを作り出すのは苦手な一方、周りの人のタイミングに合わせればスムーズに言葉を発せられる傾向もあるため、一定の効果がみられるという。
人と話さずに生きられる人はおそらくいない。しかし、それさえも自分の意思に反してままならず、周囲に理解されないというのは相当な生きづらさだろう。今、自分自身が“吃音症”に悩む人びとはもちろん、そうでない人たちにもぜひ手にとってもらいたい1冊である。
文=カネコシュウヘイ