なぜ平成は失敗した? バブル当時の経営者が気づかなかった“変化”とアベノミクスがもたらす「悪魔のシナリオ」

社会

公開日:2019/3/11

『平成はなぜ失敗したのか 「失われた30年」の分析』(野口悠紀雄/幻冬舎)

 平成は、日本が世界から取り残された時代だった。「日本が世界をけん引する」。「日本は強い」。バブル当時の日本人は本気でそう考え、世界中もそう期待し、皆がこの世の春を謳歌した。ところが1990年代に入ってバブルが崩壊。「失われた10年」が訪れた。

 それから日本は一時的に景気が回復したように“見えた”が、再びリーマンショックや東日本大震災などの影響で力を失う。景気が上向いたような、上向いてないような時間がずるずると流れ、とうとう「失われた30年」になってしまった。

 なぜ平成は失敗に終わったのか? 誰の責任だったのか?

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 その理由を『平成はなぜ失敗したのか 「失われた30年」の分析』(野口悠紀雄/幻冬舎)よりちょっとだけ振り返ってみたい。

■バブル到来で日本中が浮かれ、世界で起きた大きな変化に気づけなかった

 本書は、大蔵省の元官僚で経済学者の野口悠紀雄さんが、平成が失敗した理由を結論づける1冊。内容は非常に密度が濃く、平成30年間の出来事を詳細に検証しながら分析・考察している。この本を読めば、なぜ日本経済が世界から取り残されたのか真に理解できるはずだ。

 一般的にバブル崩壊が起きた理由は「金融機関の不良債権にあった」と理解されている。しかしそれはあくまで「金融機関に限定された問題」と野口さんは指摘。本当の原因は、世界情勢が大きく変化したのに、日本人がバブルに浮かれて気づかなかったせいだ。

 1980年代、日本の地価と株価が大暴騰した。「東京がアジアの金融中心地になる」と盛んに言われ、88年には政府が直々に「地価の上昇は当然だ」というお墨付きを出した。野村證券の時価総額はアメリカの証券会社全体よりも大きくなるほど、異常事態が起きていた。日本中が浮かれていた。

 しかし90年代に入って日本経済が大きく変調する。株価がとめどない下落に転じ、地価も下がり始める。そればかりか企業の売上高が伸び悩み、営業利益が減少を始める。しかし当時の人々はそれを「一時的な調整」ととらえ、対策を打たなかった。80年代から始まった世界情勢の変化に気づけていなかった。

■平成が失敗した理由は産業の構造変化に遅れたため

 新興工業国のうち、1980年代に目覚ましい発展を遂げた韓国、台湾、香港、シンガポール、そして中国。特に中国の発展はすさまじく、農業から製造業へ産業構造を転換したことを機に、外国資本との合弁企業が続々と誕生。先進国の技術を取り入れて発展していった。

 このとき日本の製造業が、1つの企業が工程の最初から最後まで生産する「垂直統合型」から、複数の企業が様々な工程を分担して生産活動を行う「水平分業型」へ転換できていれば、日本製品は世界シェアを失わなかった。

 中国が有する、人口に物を言わせた圧倒的な労働力とその賃金の安さによって、世界中の企業が「水平分業型」を採用した。こうして工業製品の価格は世界的に下落。バブルに浮かれてこの変化に気づけなかった日本は、相変わらず「垂直統合型」による国内生産を続け、コスト競争に勝てなくなった。

 92年当時、日本で販売されていた国産PCが50万円だったのに対し、アメリカのPCメーカー「コンパック」が13万円の製品を発売したことで、日本の国産機と言われたNECの98シリーズが大打撃を受けたエピソードが印象深い。

 一般的にバブル崩壊は90年代後半に始まったと考えられている。しかし本当の始まりはバブル時代から起きていて、日本人が「日本は世界一」と信じていたとき、すでに足元が崩れ始めていたのだ。

 日本経済が崩壊したのは、バブル崩壊のせいでも金融機関の不良債権問題のせいでもない。バブルに浮かれた日本人が世界情勢の変化を読み切れず、世界的な産業の構造変化についていけず立ち遅れたせいだ。その影響は30年経った今も続く。先は見えない。

 本書の冒頭で野口さんはこう述べている。

この時代において、私たちの世代は、50歳代から70歳代を経験しました。そして、すぐ上の世代とともに、世の中を動かすようになったのです。(中略)私たちの世代は、上の世代が築き上げた日本社会を、世界の動きに合わせて変えていく責任がありました。(中略)残念ながら、それに失敗したと言わざるを得ません。

■アベノミクスがもたらす「悪魔のシナリオ」

 残念ながらここまでの内容は本書のほんの一部だ。このほかにも野口さんは様々な「平成の失敗」を解説する。

 最後にアベノミクスについて触れたい。現在、日銀・黒田総裁主導のもと、異次元の金融緩和が行われている。民間銀行が保有している長期国債を年間約50兆円買い入れ、消費者物価の対前年比上昇率を2%にしようとしているのだ。

 このときメディアでは「市場に大量のマネーが投入された」と表現されるが、野口さんによるとこれは著しい誤解だという。難しい話は本書に譲るとして、簡単に表現すると、「たしかに銀行が保有するお金は激増したが、経済が元気でないので誰も借りようとせず、市場に出回るお金は微増にとどまっている」ということ。つまり効果がほとんど出せていないのだ。そもそも2001年に日銀は同様の量的緩和を行ったが、効果がなかった。政府はそれをわかっていて、2013年からいまだに効果のない政策を続けていることになる。いったい何の茶番なのか。

 さらに野口さんはアベノミクスの実態を暴いている。2012年ごろから顕著な円安が生じ企業に大きな利益をもたらした。しかしそれは「ユーロ危機の沈静化」「トランプ氏の大統領当選」といった海外情勢の影響に過ぎず、金融緩和が円安をもたらしたわけではない。

「アベノミクスは企業活動を活発化させた」と言われているが、これも違う。ここ数年間の日本企業の売上高や営業利益は、為替レートの変動によって振り回された。帳簿上の利益が増えただけで、企業が拡大・成長したわけではなかった。だから私たちの月収に影響するわけがない。

 そしてアベノミクスに最大の問題がある。現在続ける金融緩和を停止すると金利が大暴騰し、日本の財政が破綻してしまうというのだ。この解説は少々難しいので本書に譲りたいが、「悪魔のシナリオ」と表現する野口さんの深刻具合からして、アベノミクスがもたらす影響は悪い意味でとんでもないことになっている。この事実にどれだけの人が気づけているだろう。

平成の時代が終わることから、平成回顧ブームが起き、多くのメディアが「平成を振り返る」という特集を組んでいます。
振り返るのであれば、過去を懐かしむだけでなく、なぜ平成が日本にとっての失敗になってしまったのか、その原因を明らかにすることが重要です。それによって、平成回顧ブームを意味のあるものにすることができるでしょう。

 平成は失敗に終わった。その理由も明らかにされた。では、次の時代はどうだろう? 日本はどうなっていくのだろう?

文=いのうえゆきひろ