正しく日本語使ってる? 「汚名挽回」「苦肉の策」「一睡の夢」…恥をかかないために知っておきたい語彙
公開日:2019/3/15
「平成」から新たな元号へ移り変わろうとしている。とはいえ、通貨の印字が新元号になっても貨幣価値が変わらないように、人の生活もそれほど変わることはないだろう。変化はするものの、それは長い時間をかけてのこと。そういう意味では私たち人の生活に直結する「言葉」も、例外ではない。
『ヤバいほど日本語知らないんだけど』(前田安正/朝日新聞出版)では日本語の語彙やよくある「誤用」についても紹介しているのだが、かつては誤用とされていたものでも、現在では正しいと認識されているケースが意外と多いことがうかがえる。
だが、ひと口に「誤用」といっても、どういった表現のことなのかピンとこない人も少なくないだろう。日常で何気なく使っているかもしれない言葉を本書から挙げて、それを確認してみたい。
■この表現は正しい? 「次の試合に勝って汚名挽回しよう」
さて、この例文は正しいだろうか? 正しいと思った人は間違いで、これは「誤用」だという。正しくは「汚名返上」である。
しかし2004年度の「国語に関する世論調査」によれば「汚名返上」を使う人は38.3%、それに対して「汚名挽回」を使う人は44.1%と逆転現象が起きており、この言葉はある有名アニメキャラが「誤用」してしまったことが原因でネット界隈でもよく知られている。
本来の「汚名返上」の意味は、「一度受けた不名誉な評判を元に返す」ことだ。それがなぜ誤用されるに至ったかといえば、同じような意味の「名誉挽回」という言葉があるからだろう。こちらは「失った名誉を取り戻し回復させること」の意。「挽回」は「失ったものを取り返し回復させること」なので、「汚名」と組み合わせると「汚名を取り戻し回復させる」ことになってしまう。
■意味が通じる? 「やっと考えついた苦肉の策」
この例文は一見正しく思えるのではないだろうか。「苦肉の策」を「苦し紛れの策」と考えている人も多いはずだ。しかし原典本来の意味を考えると「誤用」だという。
この言葉は元々「相手を欺くために我が身を苦痛に陥れてまで行なうはかりごと」を意味するそうだ。原典は『三国志』の「赤壁の戦い」におけるエピソードであり、詳しい人ならご存じかもしれない。おそらく「苦し紛れの策」というニュアンスは字面からくるイメージが原因なのだろうが、その意味なら「窮余の一策」と表現するのが正しいと本書は指摘する。
■間違いに気づける? 「たとえどんなに名声を得たとしても、それは一睡の夢にすぎない」
正直なところ、私はこの文章の間違いがわからなかった。正しくは「一炊の夢」であり、これは「人間の栄華ははかないもの」という意味。原典は「邯鄲の夢」などと呼ばれる中国の故事で、一生の栄枯盛衰を夢見ながらうたた寝していた男が、目覚めてみたら眠る前に炊きかけた食事がまだ煮えてもいなかった、というエピソードによるものだ。
なぜ私がこの間違いに気づかなかったかというと、理由がある。私が敬愛する戦国武将・上杉謙信公の遺した辞世の句に「四十九年一睡夢 一期栄華一盃酒」というものがあるからだ。
言葉はいわば“生き物”である。人の営みが続く限り、絶えず変化していくのだろう。特に近年はインターネットやSNSが普及し、「ググる」や「やばみ」といった言葉が次々と新しく生まれ、日常でも使われる。しかしだからといって、古きよき「日本語」が忘れられてよいことにはならないだろう。変化は変化として受け入れつつ、正しい日本語を受け継いでいくことが、今を生きる私たちの次世代に対する責任ではないだろうか。
文=木谷誠