月旅行や火星旅行が可能になる? アマゾンvs.テスラのライバル争いは宇宙にまで拡大!
公開日:2019/3/18
2月22日に、リチャード・ブランソン率いる宇宙旅行企業ヴァージン・ギャラクティックは、同社の宇宙船「スペースシップ2」が、初めてパイロット以外の人を乗せて、宇宙からの地球の眺めや無重力を体験したと発表した。「いよいよ宇宙観光時代の幕開けか」と世界が注目したニュースだ。
しかし、この発表に異を唱えた人物がいた。それがアマゾン、そして宇宙事業会社ブルーオリジンを率いるジェフ・ベゾスだ。それについて報じた「ビジネス・インサイダー・ジャパン」(2月25日付)の記事によれば、ベゾスの主張はこうだ。
「スペースシップ2は、(地球と宇宙の境界線である)カーマンライン(高度57マイル:約92キロメートル)を超えていない」。つまり高度不足であり、まだ宇宙へ行ったとは言えないと指摘。さらに、「我々(ブルーオリジン社)は106キロメートル(66マイル)まで到達した」と付け加えたそうだ。
■ブランソンvs.ベゾス vs.マスク 3つ巴の宇宙開発競争がアツイ!
現在、宇宙ビジネスが熱気を帯びている理由のひとつは、このリチャード・ブランソン、ジェフ・べゾス、そしてもうひとり、宇宙事業会社スペースXを率いるイーロン・マスク(テスラモーターズのCEOでもある)という起業家にして大富豪たちが、民間企業として宇宙開発事業に参入し、激烈な競争を繰り広げているからだろう。
彼らはどんな思いから宇宙事業に参入し、どんな紆余曲折を経て、どんな成果をあげているのか、その詳細な足跡(2000~2017年まで)をたどれるのが『宇宙の覇者 ベゾスVSマスク』(クリスチャン・ダベンポート:著、黒輪篤嗣:訳/新潮社)だ。
■ベゾス対マスクの対決は、「ウサギと亀」状態!?
本書の主役である、マスクとベゾスは、それぞれに違った個性を放つ。2人はよく、「ウサギ(マスク)と亀(ベゾス)」にたとえられるという。不眠不休の勢いでスピーディに宇宙ロケット開発を進めるマスク。対して、焦らず慎重、かつ、極秘裏に開発を進めるベゾス。
本書巻頭のタイムライン(年表)によれば、ベゾスが宇宙事業の会社ブルーオペレーションズ(現ブルーオリジン)を設立したのは2000年9月。一方、マスクはスペースXを2002年2月に設立した。マスクの方が2年遅いが、2019年現在ウサギは亀を大きく引き離しているという。
しかし本書を読むと、何度もマスクの発言が引用されているように「宇宙開発はむずかしい」ことがよくわかる。些細な人為的ミスや、打ち上げ台の自然環境のちょっとした要因がロケット発射に大きな影響を及ぼし、失敗や爆発事故へとつながってしまう。そのため、ベゾスの“亀戦略”で、一つひとつの技術をしっかりと着実に安定させてから、次のステップへと向かおうとするのも、大いにうなずけるものがある。
■なぜか発想が被りまくる天才たち
そんな対照的な2人は、「宇宙の覇権」をかけ、技術だけでなく訴訟沙汰を含めたさまざまな熱きバトルを展開していることは本書に詳しい。天才的な才能をもっている2人だが、往々にして発想が被り、それもバトルの火種となるのだ。
参入時期もほぼ同時期。これまでNASAが発想さえしなかったリサイクル可能な宇宙ロケットの開発を目指している点も被る。その基礎実験として打ち上げたロケットを地球へ帰還させ着地させる実験もほぼ同時期に成功させている。
また、宇宙開発を低予算・高品質で行おうとしている点、ビジネスの範疇を超えて、幼少期からの宇宙へのロマンと人類の未来を見据えての社会貢献事業として宇宙開発に取り組んでいるという動機などもまた、然りなのである。
2人の宇宙開発の違いといえば、ベゾスは月、マスクは火星を、当面の開発目標にしている点だろう。そして、2人のバトルを横目に見つつ「メリットのない争いにはかかわりたくない」と、スルーを決め込んでいるのが冒頭に挙げたブランソンだ。
さて、この3つ巴の宇宙開発競争は、今後どんな展開を見せるのか。もしかしたら、このライバル意識が相乗効果となって飛躍的な技術革新が起こり、月や火星が旅行先の選択肢に入る日もそう遠くないのかもしれない。
そんなロマンを胸に、ぜひ本書で、宇宙に情熱(と財産)を注ぐ男たちに触れてみて欲しい。
文=町田光