嗚呼、なんて自堕落だったんだあの頃は…怠惰でエッチな大学生の日常生活コメディ『惰性67パーセント』
更新日:2019/3/31
筆者の学生生活といえば、大学に入ったら日本文学を学ぶぞ、と意気込んで入った1週間後には、連日サークルの新歓の飲み会に顔を出し、その1カ月後には学科やサークルでできた友人と遊ぶことに夢中になり、気がつけば、毎日のように大学の近くで暮らす友人の家で飲み物を片手に延々となんでもないことをおしゃべりする、自堕落な学生生活ができあがっていた。
今思えば、「あのときもっと真面目に勉強をしておけばよかった」とか、「きたる将来のために語学をやったり留学をしたりしておけばよかった」とか、後悔することはままあるが、あのときだからこそできた無責任で自堕落な学生生活は、それはそれで心底楽しかったし、今も思い返して浸ったりする。
紙魚丸氏が描く『惰性67パーセント』(集英社)は、そんな怠惰で生産性のかけらもない学生たちの日々を描いた日常漫画だ。
主人公は、美術系の大学に通う、女子大学生の吉澤みなみ。大学から近いところに住んでいる彼女の部屋には、毎日のように友達の北原や西田、伊東が入り浸る。大学の授業や自分たちの専攻について語る様子はまるでなし。むしろ大学の話が出てきたと思ったら「いかに楽に単位を稼ぐか」とか「レポート最終日に間に合わない」とか、典型的なダメ学生っぷりがいい。
基本的には、吉澤の部屋での1コマが描かれる。缶のお酒を飲む日もあれば、みんなで鍋をつつく日もある。麻雀や黒ひげ危機一発で賭けて遊んだり、大量のジュースを買い込んでこっそり酒を密造したりする(法律違反です)。たまにスキーや温泉など遠出もしたりする。
ちゃっかりしている北原に比べ、仕送りをしてもらっても趣味に使い込む万年金欠の吉澤や、いつも水道代や光熱費などを滞納している伊東、クレジットカードを使いすぎて支払いに困っている西田など、お金にだらしない人間が揃っている。
男と女が一つ屋根の下、しょっちゅう顔を合わせて話し込んでいれば、性の話も避けられない。下ネタを言い合ったり、無防備におっぱいぽろりしている女子に男子が顔を赤らめて突っ込んだり、大人のおもちゃに興味津々で試したり。わりとHな描写が多いが、どれも可愛げがある。
実際、彼らはヤリまくりのリア充というよりは、経験の少ない耳年増という感じで、描かれるアダルトな会話や場面がどれも初々しいのだ。照れてる彼らに、こっちが恥ずかしくなってしまう。外で読んでいても特に支障はない程度のちょいエロ描写という感じ。
と思ったら、唐突に主人公の吉澤のディルドによるオナニーシーンとかが挟まれるので、気が抜けない。
巻数が進むにつれて、カップルが成立したり、お酒の流れでラブホテルに泊まってしまったり、知らぬ間にポートフォリオ作っているやつがいたり、特に大きな波乱が起こらないまでも、じょじょに大人になっていく彼らの姿も描かれる。
最新刊の5巻になると、将来の話なんてせず、ただ今を楽しみ、エッチなハプニングに喜び、欲望に忠実に生きていたダメ人間たちが、就活について話し始めていたりしていて、それが、自分の学生時代を思い出して少し寂しくなるくらいにリアルだったりする。
永遠に続く怠惰な生活も見ていたい気がするが、終わりあるモラトリアムだとわかっているからこそ尊いと感じる日々もある。読んでいてどこか懐かしく、ホッとする作品。
文=園田菜々