ストレス社会を支える精神医療の闇…精神科の受診には十分に気を付けろ!?
公開日:2019/3/23
世の中では暴行事件が後を絶たないが、加害者が明らかになれば通常、罰が与えられる。しかし、殴る、蹴る、縛り付けるといった暴力的な行動を繰り返しながら、罪を問われず守られている人たちがいる。精神医療の現場で働く人たちだ。
『なぜ、日本の精神医療は暴走するのか』(佐藤光展/講談社)は、そんな不可思議な精神医療の実態を明らかにした衝撃の1冊だ。著者は読売新聞東京本社の医療部に15年間在籍し、数々の受賞歴を持つ医療記事の連載を執筆していた元新聞記者。独立後は医療ジャーナリストとして活躍している。過去には新潮ドキュメント賞最終候補作に選ばれた『精神医療ダークサイド(講談社現代新書)』(佐藤光展/講談社)や、数々のメディアで精神科医たちの驚きの実態を暴いてきた。
精神医療は今や多くの人にとって身近な存在になりつつある。日本はストレス社会といわれる中、うつ病の患者数も増加傾向にあり、以前は受診に心理的な抵抗感があった精神科や心療内科を受診する人が増えているからだ。しかし、病院、とりわけ慣れない精神科では医師の診断や助言に疑問や不満が生じても反論する人は多くない。医療について素人である患者は専門家である医師を信頼しやすく、特に解決策がなく困っているときであれば最後の助けとして全身で頼ってしまいやすいものだ。
そのような中、短時間の診察だけで大量の薬を処方されても、そのまま受け入れてしまい、やがて長く薬を服用しているうちに中毒のような状態となってしまう例は少なくないという。薬を減らせば精神が安定せず、また薬を増やすという悪循環に陥るケースも多いようだ。
本書では、治療と称して病院に隔離され、大量に与えられた薬によって病状が悪化し、若くして突然死した男性の話が紹介されている。入院前と入院中で驚くほど姿が異なる男性の写真とともに明かされた、入院中の数ある非人道的な扱いには誰しも驚愕させられるだろう。
また、健康な女性が被害を受けた例もある。夫婦喧嘩に駆け付けた警官に夫が「妻が自殺しようとしている」と嘘の証言を訴えたことにより妻は精神錯乱者というレッテルを貼られ、不誠実な医師の簡易的な診断のもとそのまま措置入院となった。一度措置入院をした人の訴えはすべて被害妄想としか受け取られない。女性は入院後、屈辱的な仕打ちを受け続ける。
さらに、子どもも被害者となっている。不眠や昼夜逆転、ネットゲームなどへの依存が続いていた中学生が両親にたしなめられるたびに暴言や暴力を繰り返したため強制入院となり身体拘束を受けた。少年は入院中にいらだった行動も見せたというが、思春期で強制的な拘束を受けたことを思うと精神的に不安定になることは理解できるし、両親以外には礼儀正しくスタッフと穏やかに接していた少年に、そもそも身体拘束は必要であったのかと著者は疑念を抱く。
また、万引きなどを理由に入院となった高校生がガムを隠していたことを理由に前頭部だけをバリカンで刈り上げる恥辱的な罰を受けた。もしも学校で教師が同様のことを行ったら大問題だが、「医療」のもとで行う病院ではなぜか許されるのだという。
ほかにも、看護師2人が隔離部屋で患者の顔面を踏みつけ、おさえ込み、蹴りを入れるなどして首の骨を折り、その後死亡した事件も起きている。この事件では看護師らの暴行の様子がビデオ映像に残されていたのに看護目的での抑制行為であると認められ、裁判で厳しくは罰せられなかった。
著者が取材した精神病院では良心的な職員は心を痛めて去り、残った職員は見て見ぬふりをし続けているという。また、勇気ある内部者が告発したケースも本書では紹介されているが、閉鎖的で医師の権限が強い精神医療の現場の闇はついに暴かれることも罰せられることもなかった。
うつ病や認知症が増加傾向にある中、いつ自分が、家族が、精神科を頼ることになるかもしれない。いたずらに被害者を出さないためにも、また、きれいごとだけでは済まされない厳しい現場で懸命に誠実に医療に従事する医師や看護師たちの努力を無にしないためにも、人々がブラックな精神医療の現状をきちんと知ることは大切だ。
いまだ閉ざされた精神医療の恐怖の実態とともに、病院選びに迷う人に向けた取り組み、安心できる医療を目指した活動や病院なども紹介されている本書を通して、今後の病院との付き合い方をしっかりと考えておくとよいだろう。
文=Chika Samon