日本人は世界で一番愛されている!? あとは○○を身につければ怖いものナシ【後編】
公開日:2019/4/4
【前編】グローバル社会で活躍できる人に共通する6つのポイントとは? “全米最優秀女子高生”の母・ボーク重子さんに聞いた!
■親が子どもにやってはいけないこと
――誰でも今すぐにはじめられる「世界基準の教養」を育む家庭教育について、具体的にいくつかご紹介いただけますか。
ボーク重子氏(以下、ボーク) まず何でも子どもに選ばせることです。おもちゃ、食べ物、遊び、洋服、何でもいいので、「どれがいい?」「どれが好き?」と聞いて子どもが何か選んだら、「なんでそれがいいの?」と私は理由まで聞いていました。そういう習慣を続けると、子どもの思考力が高まって年齢とともに複雑になっていく思考のプロセスが見えてきます。親はそれを否定したり評価したりせずに見守ってあげればいいのです。
やってはいけないのは、親が一方的に選んだものを押しつけたり、子どもが嫌がっていることを無理矢理やらせたりすること。そして、子どもが考える前に先回りして何でもやってあげることです。子どもはまだ知識量が少ないので、親が知っていることはどんどん教えてあげて、いろいろなことを体験できるチャンスを与える必要はあります。でもそのあとどうするかは、子どもに考えさせて、子どもに決めさせると思考力が育まれます。自分で決めることで自信も育ちます。お花を育てるのと同じで、水や肥料をまったくあげなければ枯れてしまいますし、与えすぎるとダメになってしまいます。
――子どもの自主性を重んじて、ひとりの人間として尊重することが大切ですね。
ボーク 子どももひとりのメンバーとして、世界最小で最強の家族というチームに引き入れて、一緒に助け合っていくことです。そういう感覚を持っていると、この子はどんな考えの持ち主で何をしたいのか? ということに自然と意識が向くはずです。
チームの一員になるということは、役割を与えることでもあります。私も娘に小さい頃からたくさんお手伝いをさせました。「あなたは何ができる?」「どんなお手伝いだったらやってみたい?」と聞いて、お料理でもお掃除でも娘ができることを手伝ってもらって、終わったら必ず「ありがとう。助かったわ」と感謝しました。そうすると本人も喜んで、また次の日も自分からお手伝いするようになります。勉強よりお手伝いをするほうが、子どもの成長にはずっといいことだと私は思います。
■国際的に見ても日本人はとても基礎学力が高い
――お手伝いはありがたいけれど、勉強もできてくれないと困ると、成績に一喜一憂する親御さんも多いと思いますが。
ボーク 昨年の夏、私の娘が日本語を勉強してテストを受けたら、22点でした。さすがに私もびっくりしましたけど、本人の希望で時間制限なしで再チャレンジしたら66点で、最終的に88点までいきました。点数が低ければ低いほど、それだけ“伸びしろ”があるということです。
ただ、国際的に見れば日本人はとても基礎学力が高いので、もっと自信を持ったほうがいいと思います。基礎学力だけでなく、日本人の美徳、倫理観、勤勉性、礼儀正しさ、正直さは、世界でとても高く評価されています。日本人のように、当たり前のことをきちんとすることが普通にできない人のほうが、海外は圧倒的に多いので。
日本人というだけでどこに行っても信頼されますし、世界で一番、尊敬されて愛されている国民だと私は感じています。先日も、ワシントンDCでタクシーに乗ったら、運転手さんが「日本は素晴らしい国だ」と絶賛していました。私が「これからボランティアに行くんですよ」と話したら、「そんな人からお金は取れないよ!」と言われて驚きましたけど。
――だからこそ、それだけ海外で尊敬されている日本人が、世界基準の教養を身につければ怖いものはないと?
ボーク そうなんです。ですからこの本も、日本人の素晴らしさをグローバル社会で活かせないのはもったいない、という思いもあって書きました。東京大学は世界大学ランキングで42位(2018年)と昔に比べて落ちてしまいましたけど、それは評価の基準がリベラルアーツやイノベーション的なことに移行したからで、そういう教育に早く取り組んだ大学が上位にあがったわけです。言い換えれば、日本の大学が世界の教育に乗り遅れてしまっただけの話です。ですから、2020年から教育改革もはじまりますが、家庭でできることからいち早く取り組んだほうがいいと思います。
これからは、海外に行かなくても日本にどんどん移民が入ってきます。文化も政治も経済もますます国境を超えて流動していくようになります。ですから子どもたちは否応なくグローバル社会で生きていく時代になるのです。そうするとやはり意思伝達の道具として英語がしゃべれないと困りますし、リベラルアーツを学んで議論できる力を身につけておかないと、すぐに言い負かされてしまいます。議論で対等でなければなければ、立場がどんどん不利になりますので、家庭でできる子どもの英語教育から外国人と議論ができる思考力の育て方まで、私が今伝えられることをすべてこの本に詰め込みました。
■家庭教育はますます重要に
――海外では常識とされている食事の仕方、見た目の印象、社交のルールについても、第4章から第6章で詳しく伝えていますね。この部分は特に、大人にとっても役立つ情報だと思いました。
ボーク すでにグローバル社会で働いている方でも、食事のマナーや社交のルールを知らずに戸惑っている方が結構います。「こういう時はどうすればいいんですか?」と聞かれることもよくあるので、外国人に対して堂々とふるまえるマナーやルールを覚えることもこれからは不可欠になると思います。
――日本人の女性らしさを基本とした「女子力」と、アメリカの性差を超えた「ガールズパワー」の違いも興味深かったです。最近は、日本でもジェンダーレスに関する話題が増えてきましたが……。
ボーク 歴史は繰り返すと言うように、アメリカも今の日本と同じ道を歩んできました。ウーマンリブの運動が盛んだった1970年前後は、ブラジャーを燃やしてノーブラになって、あえて子どもを産まない選択をした女性たちがたくさんいたんですね。80年代に入ると、女性も男性と対等に働くのが当たり前という風潮が強まって、肩パッド入りのスーツにスニーカーで仕事する女性が目立ちました。
私が移住した90年代の終わり頃もその流れが続いていましたが、この20年でだいぶ変わりましたね。弁護士や政治家の女性でも、ピンクや緑のきれいな色のワンピースにジャケットを合わせるなどお洒落を楽しんで、みなさん可愛らしいんです。でも言うことはきっちり言う強さもあって、プライベートでは子どもがいる人も多い。要するに、女性も男性と同じように働きながら、女らしく生きることも楽しむ時代になったのです。そういう変化を見ていると、女性はすごくフレキシブルで、男性のほうがむしろ発想の転換を求められているようにも思います。
――確かに。イクメンという言葉が流行ったように、子育てしている男性はえらいという見方をする人はいまだに多いと感じます。
ボーク 日本人の男性は、仕事第一で家庭は二の次、という意識を刷り込まれて育った人がまだ大半ですよね。それなのに急にイクメン扱いされても、戸惑っている人のほうが多いかもしれません。けれども、時代がどんどん変化していくなかでは私たち一人一人が時代の変化とともに進化していくことが問われます。変わる勇気、新しいリーダーシップの形を作る家庭教育はますます重要になっていくことでしょう。グローバル社会で子どもが幸せに生きていくための土台づくりを、家族で一致団結しながら楽しんでいってほしいと思います。本著がその参考になればこれほど光栄なことはありません。
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取材・文=樺山美夏 撮影=内海裕之