生徒会室の語り部は、何に宿ったのか!? 名手に聞く「悪魔的ナレーション」の背景――青山穣インタビュー
更新日:2019/3/28
3月30日放送の第12話をもって最終回を迎える、TVアニメ『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』。日常のやり取りを見ているだけで愛着が増していく、秀知院学園生徒会の面々との時間が残りわずかなのだと思うと、なんとも寂しくなってしまう。原作コミックにおける彼らの会話や、それぞれの思惑がズレることで生まれるファニーな瞬間は、何度読んでも笑えるエンターテインメント性に満ちているが、TVアニメにおいてその威力を増大させているのがナレーションだ。原作で描かれている「説明のふきだし」は、ときに状況の理解を促し、物語を転換させる役割を担い、キャラクターの心情を補完する、『かぐや様』の面白さを支える「発明」のひとつ。豊富なキャリアを誇る声優・青山穣氏のナレーションはどのように生み出されているのか、現場でのエピソードを交えながら話を聞かせてもらった。
純金飾緒がしゃべってる、秀知院学園がしゃべってる。そういう気持ちも少し入ってるんです
青山:ナレーション、大丈夫ですか?
──観ていてとても楽しいです。でも、『かぐや様』のナレーションって状況説明だけすればいいわけではないし、主張しすぎてもちょっと違う感じになってしまうので、難しいですよね。
青山:アニメの台本には「ナレーション」って書いてあるけれども、原作にはそう書いてないわけじゃない? ただ、説明として出てくるだけで。そこで考えたのは、小説を書くときに一人称で書く場合もあるし――二人称の小説ってあまりないらしいんですけど――三人称で書く場合は神視点と言われているらしいんですね。神様が見て、語ってるような書き方。だけど、今回の場合は神視点ではなく三人称・悪魔視点だったら面白いな、ということを思いついて、その感じでやってみて。
──なぜ、神ではなく悪魔だったんですか?
青山:神は退屈でしょう。悪魔のほうが面白いじゃないですか! 今回の場合は、彼らの戦い、頭脳戦を楽しんでいるようなところがあるので、だったら神じゃなくて悪魔だよなあ、と。まあ、普通のナレーションだったら神視点なんでしょうけど、僕はご指名で呼んでもらっているので、どうにでもできるわけじゃないですか。監督や音響監督からも何の説明もなく、「じゃあ行きます」って始まって、特に何も言われずにやってます。
──ディレクションみたいなこともなく?
青山:なし! なし! 何もなし。
──(笑)最初から全幅の信頼があったわけですね。
青山:けっこう自由にやらせてもらったようなところはありますね。
──『かぐや様』における悪魔視点のナレーションには、役割が3つあると思うんです。状況を説明する。エピソードが転換するきっかけになる。もうひとつ、これがたぶん一番悪魔的な要素だと思うんですけど、各キャラクターにわりと毒を含んだツッコミをしていくこと。
青山:うんうん、そうですね。その意味では、悪魔視点という役を設定したことによって、普通のナレーションではなく生徒会と一緒に関われる、ちょっと距離が近くなったような感じがします。そのほうが、僕はやりやすいのでね。でも、寄ってるけどくっついてはいなくて、ちょっと突き放してるようなところがある。寄せた分、ちょっとやりやすくなったところはあります。
──今おっしゃったように、『かぐや様』のナレーションはまさに「役」ですよね。
青山:そうですね。これはね、前に矢島正明さん──『宇宙大作戦』のカーク船長ですよ──とお話することがあって。矢島さんがご本を出されたときに、「僕らは芝居の勉強はずいぶんやってきた。だから役を振られても、役はやれる。でも、ナレーションというのは勉強したことがない。ナレーションの極意的なやり方ってあるんですか?」って訊いたら、「いや、青山くん、それは役でいいんだ。役でやればいいんだよ。僕もそうやってやってきたけど、それ以上のことは僕にもよくわからない。この質問は、亡くなった城達也さんに訊いてみたかったねえ」っておっしゃったんですね。そういうことがあって、「役でやっていいのかな」って思ったんですね。
──それはアニメに限らず、たとえばドキュメンタリー番組とかでも「ただナレーションとして淡々と読む」のではなく、青山さんの中で流儀のようなものになっているんですか。
青山:うん、ある種のスタンスみたいなことは想定してやることが多いかな。軍事ものだったら、退役軍人みたいなつもりで、とか。声をそういう感じにするのではなく、そういう気持ちで、ということです。真っ白だと、なんともやりにくいんですよ。『人志松本のすべらない話』とかのナレーションをやっている若本規夫さんも、昔はほんと普通だったのよ。今の感じになったのは、若本さんが悩んでるときに仲良しだった谷口節さんが「ナレーションなんて好きなようにやればいいんだよ。一回好きにやってみな」ってアドバイスしたんだって。そうしたら、若本節というのかな、破天荒なものが生まれて。ほんとに今、めちゃくちゃ好きにやってるでしょう(笑)。
──(笑)そう考えると、若本さんの「好きなように」の振り幅はすごいですよね。
青山:うん。人間が変わっていくときには、何かきっかけがあるんですかね。芋虫が蛹になって、悩んで、蝶になる。苦しみの時期があって、花開く。僕はまだそこには至ってないですね。今は、芋虫が悪魔のふりをしてしゃべってる段階だから(笑)。まあでも、『かぐや様』はいわゆるナレーションっぽくやらずにOKが出ているから、殻を破る一歩になった感じはしますけど、まだまだですよ。人生は長いから。
──アニメのナレーションにあたる『かぐや様』の説明のセリフって、完全に発明だと思うんです。作品を面白くする大きな要素のひとつになっていて。
青山:赤坂先生の考える文章、面白いですよね。センスがある。
──そのものすごく面白い説明に青山さんの悪魔的アプローチが加わることで、観る側がとても楽しめるものになっているなあ、と思います。
青山:ありがとうございます。そう、もうひとつ思ったことがあって。原作の中で、白銀がつけてる純金飾緒っていう生徒会長の印があるじゃないですか。あれができた由来が原作に描かれていて、戦争中に秀知院学園出身の軍人の勲章を集めて溶かして作ったのが純金飾緒だっていう。「これでもいいかな」と思ったんですよ。あの純金飾緒がしゃべってる、要するに秀知院学園がしゃべってると言うのかな。収録が始まって半分くらい行ったところでそこに思い至ったので、そういう気持ちも少し入ってるんですよ。悪魔だけじゃなくて、秀知院の歴史、先輩方がしゃべってるのも面白いかなって思いました。でも、秀知院学園といっても、ほとんど生徒会室しか出てこない話ですもんね。そこに微妙な面白さがある。
──確かに。いろんなことが、密室で起きているというか。
青山:密室の、シチュエーションコメディというかね。
──原作の赤坂アカさんもお話されてましたけど、海外ドラマのシットコムに構造が似てるところはありますよね。お互いの言動や行動がズレちゃうことで笑いが生まれるところとか。
青山:確かにね。秀知院は広いはずなのに、ほとんど生徒会室の中ばかりで話が進むから。王道のラブコメといったら『めぞん一刻』とか思い出すけど、生徒会室は一刻館に相当する空間になるのかな?
笑わせるのは大変。だから怖いし、つらいんだけど、コメディはチャレンジしていかないと
──12話まで収録を終えて、『かぐや様』への印象はどう変わりましたか?
青山:12本やってきて、原作も読んだりすると、不思議と遠い昔の高校時代を追体験しているような気持ちになるんだよね。学生時代に戻ったような、懐かしい感じを味わわせてもらったかなと思いましたね。それが一番大きいかな。なんか、自分もあの生徒会室にいたような気になるんだよね。
──それも、神視点のアプローチだったら、そういう感覚にはならなかったですよね。
青山:そうかもしれない、確かに。
──悪魔視点のアプローチによって、一歩踏み込めたというか。
青山:そうね。彼らにちょっと近づいて、彼らのやることをニヤニヤしながら見てる感じでやったから、自分も生徒会室にいたように感じたのかもしれないです。
──生徒会キャスト座談会でも、「青山さんの存在が大きかった」という発言が出てましたよ。
青山:そんなの、先輩だから言うだけだよ(笑)。座談会、呼んでくれりゃあいいのに。
──ははは。今、その言葉を聞いて、「青山さんも生徒会の一員だったんだな」と思いました。
青山:そうですよ! 僕も秀知院学園の生徒だったんですよ! 秀知院の先輩、純金飾緒だったんですから(笑)。いろんなことを一緒に体験したんです。
──「軸を担ってくださっていたのは青山さん」という話もありました。たぶんですけど、青山さんのアプローチ、ナレーションとしての居方によって、いろいろなことが彼らの中でもうまくハマっていった部分があるんじゃないかな、と想像しまして。
青山:僕は「楽しんでやろう」ということは、基本的にどの仕事でも考えていて。アドリブ入れたり、ちょっとセリフ変えたりするのも、自分が楽しいっていうこともあるんだけど、「自由にやっていいよ」っていう僕なりのメッセージだったんですよね。「こうしたほうが面白くなるよ」っていうのは、出していきたい性格なので、「みんなにもそうしてほしいんだ」っていう。チャレンジしてる人がいっぱいいたので、それは嬉しかったですね。
──座談会で、「藤原がラップする場面は吐きそうになるくらい緊張した」みたいな話が出ていたのが印象的でした。ほんとに最高のシーンですけど、そこまでのプレッシャーにさらされながら、あんなにファニーなシーンをやってたのか、と。
青山:そういうもんですよ。だって、笑わせるのって大変だもん。テストでちょっとアドリブ入れても、シ~ンとして全然ウケなかったりするんだよね(笑)。だから怖いし、つらいんだけど、特にコメディはチャレンジしていかないと。
──笑ってもらうためにいかに大変な思いをするのかを知るという点で、若いキャストさんの中ではすごく大事な経験になってるんでしょうね。
青山:たぶん、そうですね。やっぱりシリアスなものとコメディは相当違いますから。コメディって、勝ち負けが出るというのかな、お客さんが笑ったら勝ちだし、シ~ンとしてたら負けだし。はっきり出るんですよね。やってるほうも、面白いところは面白いんだけど、「こうしたほうが面白いんじゃないの?」と思ってアドリブを入れるときは、やっぱり誰でも勇気がいるものなんだよね。芸人さんでも、新ネタをやるときは怖いらしいですよ。ビートたけしさんが若い頃、きよしさんとふたりで漫才やるときでも、新ネタをかけるのがほんとに怖くて、考えてくるんだけどどうしても昔のネタをやっちゃうって、本で読んだことがあります。それと同じで、アドリブをやるときには怖さがあるんですけど、やっぱりそれをやっていかないとね。
──飛び込んでみて、初めて見えるものがある。
青山:そうそう。でも、どれだけやっても、うまくなるかどうかはわからないですよ。ウケるときもあれば、ウケないときもある。それを繰り返し繰り返し、やっていくんですね。
──今後、何かしらの形でこの作品に参加することがあったとして、その意気込みを聞かせてください。
青山:いやもう、こればっかりはやっぱり観てくださる人の盛り上げ次第ですからね。僕らも、何かしらの形でやりたいとは思っているんだけども(笑)。皆さんの支えがあって、何かしらの形になってくるので、応援してくださるとありがたいな、と思います。アニメも、出来がすごくいいじゃないですか? すごくきれいな絵になって、工夫を凝らした感じになってるし、僕たちもなるべく工夫を凝らすようにして頑張ったので、その辺を観ていただけると嬉しいですね。
──ちなみに、青山さんのお気に入りのキャラクターは?
青山:ラーメン四天王ですね。
──ははは。即答でした。
青山:渋谷のサンちゃん、高円寺のJ鈴木、神保町のマシマシママ、そして巣鴨の仙人。早く4人揃えたい! まだ出てきてないのもいるのに四天王がオススメですってのも変な話なんだけど(笑)。
「生徒会キャスト座談会」は3月30日に配信予定です
TVアニメ『かぐや様は告らせたい ~天才たちの恋愛頭脳戦~』公式サイト
取材・文=清水大輔