詐欺被害は1回だけで終わらない! 被害者をむしゃぶりつくす凶悪な手口とは?

社会

更新日:2019/4/5

『だまされた! 「だましのプロ」の心理戦術を見抜く本』(多田文明/方丈社)

 個性派俳優として知られる斎藤洋介氏が、特殊詐欺のひとつである「オレオレ詐欺」の被害に遭っていたという報道があった。次男を名乗る男から連絡が入り、未成年の女性を妊娠させてしまい慰謝料の支払いが必要だといわれ、法律事務所の人間を名乗る代理人にお金を渡したという。本書『だまされた! 「だましのプロ」の心理戦術を見抜く本』(多田文明/方丈社)の中でも本件について解説されているように、これは詐欺の典型だったことに驚かされる。

■詐欺被害は1回“だけ”では終わらない。詐欺師が考える続編とは?

 斎藤氏は、特殊詐欺を扱ったテレビ番組にも出演したことがあり、その手口は知っているはずだった。そのうえ、数年前にも同様に長男を名乗る男から車の事故を起こしたと電話が入ったが、指定された口座にお金を振り込む直前に本物の長男からの電話を受けたことで、詐欺は未遂に終わったという。

 ところが本書によると、「人は安心してしまうと警戒心を失いがちになる」というルールを詐欺師たちは利用するため、常に「続編」があることを忘れてはいけないと警告する。しかも、それは同じ種類の詐欺とは限らず、本書の事例では悪質リフォーム業者と高額な契約をしてしまった父親の家を訪れた息子が、一旦はクーリング・オフの手続きをして難を逃れたと思った数カ月後に、また別の手口で父親は被害を受けてしまった。どうやら、詐欺グループが別の詐欺犯に情報を譲り渡した可能性が考えられるようだ。

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■巧妙な手口を操る詐欺師の素顔は――

 詐欺師や悪質業者というと、言葉巧みにだましてくるようなイメージがあるが、多くの潜入調査をしてきた著者の実感としては、「本当に口がうまいヤツだな」と思えたのは2割程度で、あとの8割は「もっと、こうやればいいのに…」といぶかしく思うくらい話すことは下手だったという。

 しかし、口のうまい詐欺師がひとりだけいるよりも、そういう人物が指導的立場となってノウハウを組織として共有したほうが、より多くの金をだまし取れる。そのため、ノウハウはマニュアル化されているそうで、それはつまり、いつ私たちも詐欺に遭遇するか分からないということにつながる。

■詐欺犯のだましのテクニックを見破るコツはあるのか?

 結論を先にいうと、だまされるのを防ぐ手段のひとつは“話を最後まで聞かないこと”だそう。たとえば、息子のフリをして電話をしてきても、「今は忙しいから話ができない」とウソをついて切る。本物の息子ならまた電話をしてくるかもしれないが、ノウハウにのっとった詐欺においても、大抵は数をこなしてカモを探しているので、時間がかかる面倒な相手に仕掛けるより次のターゲットへと移っていくのだとか。

 また、マニュアル化されているということは、想定外の返答には対応できないということでもある。そのため、勧誘や商談のような詐欺でも相手の声にかぶせて、「あのですね」とか「あ、ちょっといいですか」などと、たびたび話の腰を折って“マニュアルの流れから外してしまう”のが良いという。もちろん一番良いのはキッパリと断ることだが、性格的にそれは難しいという人のためにも断り方のテクニックが本書には載っているので、ぜひ参考にしていただきたい。

 なお、一番危険を背負ってしまうのは、詐欺に遭ったときに「これもひとつの勉強だ」と、誰にも打ち明けずに自分の心の中だけで処理してしまうことだという。先に紹介したように、被害者の情報が別の詐欺グループに渡っているかもしれず、対策を講じないままで再び狙われてしまうことになるからだ。

 著者は、詐欺師との攻防をボクシングのリング上での戦いにたとえて、“ガードテクニック”がないとノックダウンさせられてしまうという。そのガードとして、本書が手元にあるだけでも頼もしく思えるだろう。つい詐欺師に一泡吹かせてやりたい悪戯心が湧いてくる人もいるかもしれないが、「君子危うきに近寄らず」、あくまで専守防衛に徹しよう。

文=清水銀嶺