通りがかりに優しいワンポイントアドバイスをくり出す謎のヤンキー!? その正体は…

マンガ

公開日:2019/4/1

『通りがかりにワンポイントアドバイスしていくタイプのヤンキー』(1)(おつじ/スクウェア・エニックス)

 世に「ギャップ萌え」という言葉がある。イケメンが実はオタク趣味だったり、クール系美少女が可愛いもの好きだったりという、「見た目と性格のギャップ」が魅力となるアレだ。『通りがかりにワンポイントアドバイスしていくタイプのヤンキー』(1)(おつじ/スクウェア・エニックス)も、そんな「ギャップ萌え」を描いたコミックではあるのだが、想像するような「ケンカ三昧の不良がふいに見せる優しさ」などという定番的なものとはひと味違う。

 本作の主人公「桜井さん」は、一見ヤンキーとしか思えないような「怖い」面構えをしている。そんな桜井さんに、あろうことか子供がぶつかってアイスクリームをズボンにこぼしてしまった! 戦慄する子どもの母親だったが、それに対して桜井さんは「ちゃんと謝れるの偉いね」と、子どもの謝罪を褒める、まさかの神対応。そして母親には料理に関するワンポイントアドバイスをするという気配り付き。そう、桜井さんはヤンキーではなく「見た目はヤンキーだが、本当は優しいお兄さん」なのである。

 アイスクリームを服にこぼされても神対応の桜井さんなのだから、電車や道で誰かにぶつかられても決して怒らない。果てはレギュラー争いに敗れた少年がやけっぱちで蹴ったサッカーボールが頭に直撃しても、少年を気遣って「大事に使ってるボールだろ? そんな相棒に八つ当たりはやめときなね」と優しく諭してしまうのだ。桜井さんの見た目に戦々恐々としていた少年たちも、その温かさに触れて心を開いていくのである。

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 桜井さんの魅力はただ「優しい対応」だけではない。その後に繰り出される「ワンポイントアドバイス」が非常に有益なのだ。例えば、猫の話題で知り合った女子高生・藤咲さんが、飼い猫について「またご飯残してる」とこぼしたところ、桜井さんは「片栗粉であんかけを作ってかけてあげると気に入ってくれるかも」と助言。

 他にも、縁あって顔を出すようになった保育園で花壇の花が元気ないのを見て、花に「米とぎ汁」をやっていることを確認すると、「栄養過多で逆に枯れちゃったりするんで、5倍希釈にして頻度も週1にしてあげたら喜ぶかもっすね」と問題解決に協力するのだ。相手やその場の状況に合わせて的確なアドバイスができてしまう桜井さんは、大変な「物知り」でもある。

 その外見から、最初はとにかく怖がられる桜井さんだが、彼の優しい人柄に触れた人たちは二度と怖がることはなくなる。それどころか、非常に打ち解けて家にまで招待するようになるのだ。藤咲さんの兄は妹がらみで桜井さんと知り合い友人となるが、彼にいわせれば桜井さんは「皆のオカン」なのだという。「オカン」とは母親のことだが、誰に対しても分け隔てなく優しく接し、面倒を見てくれるところはまさにそう呼ぶにふさわしいかもしれない。そんな桜井さんだが、保育士の「梅ちゃん」先生は彼をどうやら異性として意識している模様。この関係が今後どうなっていくのかも気になるところだ…。

 そういえば、2019年「世界幸福度ランキング」で日本は58位であったが、特に低かった項目が、「他者への寛大さ」だった。こんな現代だからこそ、桜井さんのような生きかたは多くの人にとって参考になるはずだ。彼の優しさは、他者への思いやりや気配りから来ているのだから──。

文=木谷誠