人気ブロガー&料理コラムニストだってテキトーなご飯を作っている!? SNS全盛期に勇気をもらえる本

暮らし

更新日:2019/4/11

『クリームシチュウはごはんに合うか否かなど』(山本ゆり/扶桑社)

 あなたの家ではクリームシチュウはご飯と一緒に食べますか? ?それともパンと一緒に食べますか? 一見どうでもいいことだけど、こういう類の質問で人は意外と楽しみながら議論を続けることができるのではないでしょうか。 『クリームシチュウはごはんに合うか否かなど』(山本ゆり/扶桑社)は、まさにそういう種類の本です。

 著者は人気ブロガー兼料理コラムニスト。実は先日、たまたまAmazonで見つけた『どこにでもある素材でだれでもできるレシピを一冊にまとめた「作る気になる」本』(山本ゆり/扶桑社)で著者を知り、面白い人だと感じました。本当に作る気になる簡単なレシピが収録されているだけでなく、ところどころに挿入されている大阪弁の一人ノリツッコミが独特で、人気ブロガーになるのは分かるなと感じました。

 それで、今度はエッセイが中心の本書を読んでみたのです。帯には「本で息ができなくなるくらい大爆笑したのは初めてです」との読者コメント。どれだけ笑えるのかと思って期待して読みました。個人的には本編より、著者のおばあさんをネタにした巻末の「きよこ日記 KIYOKON」が気に入りました。おそらく多くの人は、こんなおばあさんのご飯を食べ続けて、よく著者は料理コラムニストになったなぁという感想を持つと思います。逆にハチャメチャなおばあさんがいたからこそ、料理への執着みたいなものが生まれたのかもしれません。真相は分かりませんが、とにかくこのおばあさんはいろんな意味でスゴい。笑いたい人は一読をおすすめします。

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「元気が出る」という読者コメントも気になったので、どこで元気が出るかを検証してみました。目にとまったのは「ある1週間の献立」と題して収録されている料理。ここで紹介されているのはゆでただけ、切っただけ、塩とコショウで炒めただけのものが中心で、写真もお世辞にもインスタ映えするようなものではありません。実際、著者のブログの読者の中には、著者の家の1週間の献立を知って「勇気が出ます」というコメントをする人もいるようです。

 先に紹介したレシピ本は料理の本というだけあって、どの写真もシズル感があっておいしそうです。他方、本書に収録されている写真は、言い方は悪いかもしれませんが「素人がテキトーに撮った写真」という印象が拭えません。それなのになぜ著者はこれほど多くの人の支持を集めているのか。その理由を考えてみると、こういう飾らないところがウケているのかもしれない、と思いました。

 スマートフォンの写真が高性能になるにつれて、一般人がSNSできれいな写真を投稿するのは難しくなくなりました。その一方で、「いいね!」を集められる写真かどうかが投稿の基準になっているような気がします。人から見て「うらやましがられる絵」を切り取れるかどうかを中心に考えているから、SNS疲れが起こるのかもしれないとも感じます。著者も言っているように「本来、本当に充実していて楽しいことは、別に誰にも伝えなくていいはず」なのですから。

 本書は「特に何かあるわけでもない、キラキラ輝いているわけでもない何気ない日常」をつづったものです。「無駄をそぎ落とすどころか、細部まで無駄を詰め込んだ無駄だらけの一冊」なので、何か新しい知識を得たいと考えている意識高い系の人には不向きかもしれません。

 ただ、この本はそうした何気ない日常こそが人生で「そこにすべてが詰まっている」と言い切れる著者の等身大の魅力が引き出されていると感じます。本は情報収集のために読むものだと思い込んでいるそこのあなた、たまには仕事に関係のない本を読んでゆっくりしませんか?

文=いづつえり