『最高の生き方』ムーギー・キム対談【第1回 中野信子】 日本人は高収入より「人の役に立つ」ほうが幸せ――最新の脳科学に学ぶ幸福のヒント

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更新日:2019/4/8

「支配するよりも支配されたい」人が7割

ムーギー なるほど。脳科学の分野で、そのように興味深いことを研究していて「面白い!」と思ったことは他にありますか?

中野 私は一見科学がなかなか切り込めないような人間の性質に興味があるので、人間が愛情とか正義とか美しさだと思っているものが、実はすごく恐ろしいものだという分析は非常に面白いですね。普通の人は大抵、自分のことを正義だと思っていますので、地獄への道を善意で突き進んでいるようなことが往々にしてあるのです。

 みんながよかれと思ってやったことで、カタルシスを生むことがあるという例で言うと、戦争もそうです。戦争は誰か1人に責任があるわけではなく、“多くの普通の人の善意”が生んだのではないかという仮説を私は立てて、その道筋には何があったのか検証しました。

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ムーギー ということは、世の中の大半を占める、常識的で礼儀正しい規律のある人ほど、いざとなったら残虐なことを平気でやると?

中野 その通りです。特に、宗教心が強くて礼儀正しい人ほど、残虐なことをすることにためらいがないといえるでしょう。

ムーギー 宗教への信仰心が厚い人ほど“神への忠誠”に最高の価値があるので、その前には“これ以上神の秩序を侵すことがないよう、他人を排除することも、“神への愛および正義”という美徳の元に正当化されてしまうということですね。命令に従順な文化とも言えそうです。

中野 おっしゃる通りですね。軍隊としては強い。

ムーギー 思い当たる国がちらほらありますね。そうすると、人間は個人として自由に意思決定するより、人に命令されて支配されることで幸せを感じることもある、ということでしょうか。

中野 人によって適性があるのですが、7対3ぐらいの割合で「支配されたい人」のほうが多いと先行研究からは推定できます。それだけに、自分で意思決定することの重要性をわざわざ説かなければいけないほど、みんな受け身になっているというわけです。

 組織でも、部下からすると「自分が受け身でいられる」上司のほうが好まれます。そこへきて、サイコパシー傾向がある上司は、自分で意思決定して、自分の好きに部下を動かせる環境を求めているので、需要と供給のバランスは非常に保たれている。サイコパスが出世しやすいというのは、そういう理由です。