悩みを「乗り越えられる人」と「乗り越えられない人」の違いは?【心がしなやかになるメンタルトレーニング付】
更新日:2019/4/19
「絶対にダメ!」と言われれば言われるほど、人は「ダメ」なものが気になって仕方なくなる。
白いタコ糸がついた赤い風船をイメージしてください。それが、青い空に飛んでいくところはイメージしないでください。1個、2個、3個と赤い風船がうかんでいるところを絶対にイメージしないようにしてください。
「赤い風船が飛んでいくところはイメージしないで」。そう言われれば言われるほど、誰もがそれをイメージしたはずだ。
実は、悩みを抱えているときもこれに近い状態が起きているという。不安や悩み、嫌な出来事を忘れようとするほど、もっと苛んでしまう。そんなときはどうすればいいのだろう?
居酒屋で飲んで忘れる? 趣味に没頭する? これらも方法の1つだが、悩みが根本的に解決されるわけじゃない。
『悩みにふりまわされてしんどいあなたへ』(志村祥瑚、石井遼介/セブン&アイ出版)は、最先端のメンタルトレーニングを活用して、悩みを自分の力で解決する方法を授ける。著者は、日本認知科学研究所の代表理事を務める志村祥瑚さんと、同じく理事を務める石井遼介さんだ。
■悩みを乗り越えられる人と乗り越えられない人の違いは?
どんな人生であっても、嫌なことが必ず起きる。頭を抱えるような悩みが必ず生まれる。人生に壁はつきものだ。
目の前の壁にぶつかったとき、その現実を受け止めて乗り越えようと前に進む人がいる。それを本書では「成長ループ」と呼んでいる。
しかしなかには現実を受け止められずに、無理やり忘れようと「役に立たない行動」をしてしまう人もいる。失恋が辛くて「もう二度と恋愛はしない」と言い張る人、勉強が嫌でいつもスマホゲームばかりしてしまう人、本当はスリムになりたいのに言い訳ばかりで食べ物を口にする人。現実を受け止められずに、問題を先送りにして忘れようとする「代替行動」を始めると、人は前に進めない「ゆううつループ」に陥る。
辛くて苦しいループを抜け出すには、いつもの「代替行動」を「まったく役に立たない行動」だと認めること。「代替行動」で逃げずに、辛い感情を心底味わって受け入れることが大事だ。これを「創造的絶望」という。
この辛い過程を越えて、人はまた前に進める。
どんな人だって悩みを抱えて生きている。晴れやかな顔で毎日生活できる人は、悩みがないのではなく、辛い思いを経て悩みを乗り越えたから、晴れやかな顔で今を過ごせるのだ。
本書では、悩みに直面したときに私たちの内面で起きる変化や、悩みが日に日に大きく膨らむ理由を解説する。なぜこんなにも心が苦しいのか、読み進めればきっと答えが見つかるだろう。
さらに、悩みと良い距離で付き合う最先端のメンタルトレーニングを紹介している。おそらくこれが本書の核心だ。
■心をしなやかにする最先端のメンタルトレーニング「ACT」
アメリカの医療現場で使われる最先端の精神医学・臨床心理学から生まれた認知行動療法がある。「ACT」だ。これは「たとえ心の苦痛や悩みがあったとしても、よりよい人生を選べるようになる」という新しい考え方。
本書の第3章では、「自分の悩みを自分で解決するエクササイズ」と称して、ACTを活用したメンタルトレーニングを解説している。その方法には3つのステップがあり、それぞれのステップに段階的なエクササイズが用意されている。
たとえばステップ(1)の“「ほんとうの問題」をみつけよう”では、「エクササイズ01」として「あなたがもっと幸せであるために何が必要か考える」項目がある。
必要なものが書き出せたら、そのうち「必要だけど取り組めていないもの」にマルをつける。そして取り組めない代わりに、ついやってしまう「代替行動」を書き出す。
このようにステップ(1)に従えば、向き合いたくない悩みや問題、その根源となった過去の出来事をあぶりだしてくれる。
さらにステップ(2)では、(1)で導き出した悩みや出来事に真正面から向き合う。
3つのステップに用意された30近いエクササイズに取り組むことで何が得られるのか。それは悩みを手放す「心のしなやかさ」と新しい自分だ。
ステップ(1)で自分が抱える悩みを深堀りして正体を見極める。ステップ(2)では、その悩みを様々な角度から見つめて、しっかりと心で抱きしめる。そして心から悩みを手放す。最後のステップ(3)に至るときには、今までとは違う「新しい自分」がいて、今までの自分を振り返る。
■ポジティブも、ネガティブも、すべての感情に味わう価値がある
筆者自身も本書のエクササイズに取り組んでみた。抱える悩みは人間関係のトラブル。ある人の無理解に怒っていた。「なぜお前は自分が正しいと信じ込んで、俺の話を聞かないのか?」。筆者はそう憤っていた。
エクササイズに取り組んだ結果を一言で表現すれば、「もっと相手の話を聞いてもいいかも」と悟れたことだった。
筆者に言い分があれば、相手にも言い分がある。お互いにその考えに至る人生のバックボーンがあるのだから、まずは相手ともっと向き合おう。もっと理解しよう。そんなことを素直に感じられた。
本書の終わりにはこんな言葉がある。
ポジティブなものも、ネガティブなものも、
すべての感情は、味わう価値のある感情です。
幸せで楽しい感情だけに囲まれて毎日を生活したい。辛くて苦しい感情は避けたい。誰もがそう願って生きている。けれども辛くて苦しい感情があるから、幸せで楽しい感情がより素晴らしいものに感じる。辛くて苦しい今を乗り越えるから、幸せで楽しい日々に心から感謝できる。
悩みは避けて通れない。大切なのは、どんなに辛く苦しくても、それを受け止めて乗り越えることだ。本書にはそれを手助けするメンタルトレーニングが紹介されている。トレーニングを行えば行うほど、心がしなやかになり、気持ちが楽になる。自分の感情に疲れてしまったら、ぜひこのエクササイズを試してほしい。そして新しい自分になって、成長のある明日を迎えてほしい。
文=いのうえゆきひろ