ブスをめぐる暴力と救済…『朝起きたらブスだった』がリアルすぎる
公開日:2019/4/6
朝目が覚めたら「俺、女になってる…!?」
朝起きて、何か違和感を覚えて、体を見てみると…おっぱいがある。この状況、多くの人はどこかで見たことがあると思う。
女体化。それは男のロマン。古来から現代に至るまで、くりかえし描かれてきているモチーフである。
でも、女性は引っかかりませんか? なぜもれなく、女体化した男は美少女なんだ、と。しかも朝起きて、速攻で鏡見て、ハッとするほどの美少女。朝起きて、そのまま鏡見て、自分を美少女と思えるような女がいかに希少種か知ってるのかと。朝、女が顔面をこしらえるのにどれほどの時間とコストと手間隙と……(以降自粛)。
このような怒りを代弁してくれるのが『朝起きたらブスだった』である。1年ほどダ・ヴィンチニュースで連載していたこの作品、当時はランキングをジャックするほどの人気ぶり。このたびめでたく電子書籍としてリリースされた。
主人公は男子大学生の光。オタクで、童貞とうステータスゆえに、女性に対して幻想を持ちすぎているきらいがある。そんな弟を見て激しくムカついた姉が、なぜか知っていた黒魔術によって、弟を女にしてしまう。
女になった光は最初は浮かれているものの、しだいに女という性に降りかかる不条理を身をもって思い知る。
もう、かわいくなるしかない。
決心した光は、姉の指導によってメイクやファッションを改善。どんどんかわいくなっていく。この過程もリアリティがある。そうです。正しい自己認識さえできれば、女は知識とテクニックでいかようにも変わるのです。
本作は愉快なギャグ漫画なのだが、それと同時に、「女性の容姿」という極めてセンシティブなテーマに容赦なくメスを入れていく意欲作でもある。物語に深みを与えているのは、光の姉のキャラクターだ。今は美人な彼女だが、かつては容姿で非常に苦しんでいた過去がある。ダイエットし、メイクを研究し、文字どおり血のにじむ努力の末に、今の容姿を獲得した。それだって永遠じゃない。維持するために毎日努力して、ガマンして、それでも肌は、髪は、等しく歳をとっていく。いくつになっても、女の土俵から降りることはできないのに。
じゃあどうすりゃいいの。
この不条理に対し、本作ではひとつの回答がラストで与えられる。私は泣きました。いやいや本当に、そうだよねそのはずだよね……という内容はぜひあなたの目で。
電子書籍版には、姉ちゃんの過去を描く「かつて姉ちゃんもブスだった」を収録。泣ける。また著者お肉おいしいさんの過去作『いつもうっすら黒歴史』『一重&奥二重さんの劇変メイクブック』をたっぷり読める試し読みもある。こちらも親和性が高い内容なので、合わせて読むと、「朝ブス」をまた別角度から味わえる。
女性はもちろんのこと、男性諸君もぜひ女の舞台裏を覗いてみてください。地雷回避にもなりますよ!