結婚を考えている彼がウツになった――。死に向かおうとする大切な彼を止めることはできるのか?
公開日:2019/5/25
大切な人がウツになったとき、あなたはその病と闘えるだろうか。本稿で紹介する『むしろウツなので結婚かと』(城伊景季:著、菊池直恵:漫画/講談社)は、実話をベースにふたりでウツと向き合った軌跡を描いたマンガである。主人公の会社員・シロイには、結婚を考えている彼氏・セキゼキさんがいる。シロイは、彼とネットのオフ会で出会い、今は同じIT企業で働いている仲だ。だが、その会社はいわゆる“ブラック企業”だった…。
ある日、シロイはセキゼキさんの異変に気が付く。部屋に、鎮痛剤の空箱がたくさんあるのだ。セキゼキさんは最近頭痛がひどいらしく、かなりハイペースで鎮痛剤を飲んでいる様子。どうもおかしいと不安に感じたシロイは、「一度病院に行って」とセキゼキさんを説得しようとするが、それに対する彼の返事は予想外のものだった…。
■頭痛はウツの典型的な初期症状。身近な人に異変を感じたら…
ウツの初期症状は、さまざまなところに現れる。セキゼキさんが発症した頭痛も、そのひとつだ。だが、ウツによる頭痛には、市販の解熱鎮痛剤は効かない。著者によれば、身近な人にこうした兆候が出たときには、「総合診療科」や「頭痛外来」を紹介することが有効だという。いきなり「精神科に行ってみたら?」と言われたら、気分を悪くしてしまう可能性が高いからだ。総合診療科ならば、そこで医師が症状を見てどの専門科に行くべきかを教えてくれるので、ワンクッション置けるというわけだ。
■ウツ治療の第一段階は病院に行くこと。でもそれがむずかしい
シロイは、ウツになってしまったセキゼキさんをサポートするため、さまざまな情報収集を始める。ウツ専門の相談室に電話をかけたところ、「とにかく彼を病院に連れていってください」とのアドバイスを受けるが、これを実行するのは想像以上にむずかしかった…。
病院に行くことで得られるメリットは、治療を受けることだけではない。診断書をもらえば、傷病手当金を申請することができ、休職していても給与の3分の2を受け取ることができるようになる。だが、ウツ患者を病院に連れて行くことは、そう簡単にできることではない。作者は当時を振り返ってみても、いまだにどうすれば良かったのかわからないことも多いと語る。ただ、次のことは意識しておいてほしいそうだ。
“しっかり食べて、しっかり寝ること。できれば毎日、何かを楽しんで笑える時間を持つこと。”
ウツで苦しむ人と一緒に生活している人まで弱ってしまうと、病院に連れて行くこともできず、パートナーもまた心身にダメージを負ってしまうことにつながる。だからこそ、親しい人が苦しんでいても、ときには笑えるような心持ちが大切だ。
本作は、ウツに立ち向かうふたりを描いた良質なストーリー漫画であると同時に、ウツとの向き合い方を知る実用書でもある。各話の終わりには要点が整理された解説が掲載されているので、同じような境遇にある人はじっくり読んでほしい。
一度ウツになってしまうと、“完全に元通りの人生”を取り戻すのはむずかしいものと思い込んでしまいがちだ。だが、かつてのような何気なくても幸せな時間を取り戻したい…。読者の私たちもそう期待しながら、ウツを乗り越えようとするふたりの闘いを見届けたい。
文=中川凌