『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』を読めば、『ゴールデンカムイ』のおもしろさ倍増!
公開日:2019/4/14
現在『週刊ヤングジャンプ』(集英社)で連載中の『ゴールデンカムイ』(野田サトル)。シリーズ累計900万部を突破し、二度のアニメ化、2018年に「手塚治虫文化賞」マンガ大賞を受賞するなど、破竹の快進撃を続けている。同作は、明治時代後期の北海道を舞台に、網走監獄の死刑囚が隠した莫大な埋蔵金を巡って、魅力あふれるキャラクターが戦いを繰り広げる冒険譚だ。『ゴールデンカムイ』の読者なら、もちろんご存じだとは思うが、同作にはアイヌの文化をはじめ、北海道に先住していた「アイヌ民族」のキャラクターたちが多数登場する。まさに“アイヌ”なしには語ることはできない漫画といっていいだろう。
先日発売された『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』(集英社)は、『ゴールデンカムイ』の連載開始時からアイヌ語監修を務めている、千葉大学文学部教授・中川裕氏の著書で、漫画同様に大きな話題を呼んでいる。
『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』の序章で、中川氏は『ゴールデンカムイ』の魅力のひとつを以下のように綴っている。
『ゴールデンカムイ』はそれまでのマンガと違い、明治末期のアイヌ社会を真っ向から漫画の中に組み込み、強い意志と高い能力を持ったアイヌを何人も中心的キャラクターとして登場させながら、高度なエンターテインメント性で広い読者を獲得していった、初めての作品だと思います
同作は、歴史の教科書の記述やこれまでの創作物で描かれてきたアイヌ民族のイメージを覆し、エンターテインメントへと昇華した稀有な作品なのだ。そしてここで紹介する『アイヌ文化で読み解く〜』もまた、アイヌの文化と、漫画の作品世界をより深く読み解くことができる一冊になっている。
『ゴールデンカムイ』のキャッチコピーは「冒険、歴史浪漫、狩猟グルメ全部入りッ! 和風闇鍋ウエスタン!!」。この言葉の通り、おもしろさをすべて煮込んで何が出てくるかわからない、まさに闇鍋的に楽しめる作品でもある。そのうち「狩猟グルメ」についても、本書では丁寧に解説している。
『ゴールデンカムイ』は、リスやうさぎ、アザラシ、ウミガメなど、さまざまな動物をあらゆる方法で食す、マネができないグルメ漫画としても人気が高い。アイヌの調理法も多数登場し、なかでも細かく刻まれたもの、という意味を持つ「チタタプ」は、動物の肉を細かく刻む定番の調理法だ。(プは小書き表記)
漫画ではあらゆる肉がチタタプにされるが、現代のアイヌやアイヌ文化に親しんでいる人が思い浮かべる食材は「サケ」だという。
サケのどこ使って作るかは、人によって違いますが、基本はカカウ「氷頭」とウプ白子」です。氷頭というのは頭の部分の軟骨のことで、これを細かく刻んで白子を混ぜて、塩少々と刻みギョウジャニンニクを加えると、上品な白いチタタプできあがります
なんでも、素材そのものの味が調味料の役割を果たすため、アイヌ料理の味付けの基本は「少量の塩」だそう。素材の味を活かしたチタタプ、すごくおいしそう……!
ちなみに、漫画では「チタタプ、チタタプ」と言いながら食材を刻むという描写があるが、これは作者・野田サトル先生の創作であることも本書で明かされる。ほかにも「野田先生オリジナルのアイヌ設定」が紹介されているので、漫画と見比べながら読めば、さらに作品理解を深めることができる。
とはいえ『ゴールデンカムイ』を読んだことがないという人でも、アイヌの文化に触れやすく読み応えのある内容になっているのでご安心を。本書を手に取り、ゴールデンカムイの世界や、アイヌの暮らしに思いを馳せてみてはいかがだろうか。
文=真島加代(清談社)