「300億円赤字」マック再建の秘策は、テレビCMでなく身近なあのツールだった!

ビジネス

更新日:2019/5/7

『「300億円赤字」だったマックを六本木のバーの店長がV字回復させた秘密』(足立光/WAVE出版)

「マック(マクドナルド)に行くのはカッコ悪い」――。そんな空気が流れている時期があった。原因の発端となったのは、2014年の期限切れ鶏肉使用問題。後にマクドナルドでは問題の鶏肉は使用されていなかったことが判明するが、イメージの悪化は避けられなかった。そして、続く2015年1月の異物混入騒動。メディアは、ふたつの問題をしきりに取り上げ、私たちはマクドナルドを避けるようになった。異物混入騒動が起きた月の売上は、前年比を4割近く下回り、マクドナルドの経営は危機に陥った。

 だが、一連の騒動から4年が経った現在、マクドナルドを取り巻く雰囲気はずいぶん変わったと感じている人は多いだろう。当時のネガティブなイメージは、もうなくなっているだろう。むしろ、話題になるキャンペーンを次々とやっているため、「最近元気だな」「楽しそう」といったポジティブな印象を持つ人が多いはずだ。

 この4年間で、何がマックを変えたのか――。その答えは、本書『「300億円赤字」だったマックを六本木のバーの店長がV字回復させた秘密』(足立光/WAVE出版)の中にある。著者は、元日本マクドナルドのマーケティング本部長である足立光氏。六本木のバーの店長でもある足立氏こそ、苦境に立たされていたマックをV字回復させた立役者だったのだ。

advertisement

■マックに対するネット上での悪評を消した“秘策”とは?

 ネット上にも拡散するネガティブな情報を根絶することはむずかしい。当時のマックについてもネット上にたくさんの悪口が書かれていた。そこで、足立氏は、ポジティブな情報を大量に発信することでそれらを上書きするという“ラブ・オーバー・ヘイト”を行う。

 それまでのマックは、店舗オペレーションの負担軽減のため、複数の新商品発売やキャンペーンを同時期に集中させていた。だが、それではメディアに取り上げられる内容や回数は限られてしまう。そこで、足立氏は、「毎週定期的に新商品を出すこと」を定着させ、ポジティブなニュースが毎週メディアを賑わせる状況を作ったのだ。

■SNSで“バズる”トピックには共通の特性がある!

 足立氏は、SNSで“バズる”という仕掛けづくりにも注力した。通常、マックのキャンペーンは、初週の売り上げがピークだ。そして、映画の興行収入のように、それが4、5週かけてだんだんと減っていく。そのため、発売前からSNSで商品についてバズらせることができれば、初動の売上を大きく伸ばし、その後も高い水準を維持することができるのだ。

 著者によれば、バズる条件のひとつに“ある程度知られていること”があるという。人がシェアしたくなる情報は、周りの3~7割が知っていそうな情報なのだ。反対に、ほとんど知られていない情報や、すでにみんなが知っているような情報は、シェアしてもしょうがないと判断される。足立氏は、こうした特性を理解した上で、情報の拡散をコントロールした。

 まずはリリースなどでメディアに取り上げられる機会を作り、その後に話題になるようなSNSの施策を打つ。そうすると、“ある程度知られている”からこそ、SNSでシェアされる確率が高まる。テレビCMなどのマス広告は、最後でいいのだという。先に打ってしまうと、“みんなが知っている情報”になってしまうからだ。

 本書は、マック再建物語を題材とした、マーケティング本でもある。マーケティングの4P(Product、Price、Promotion、Place)やターゲティングなどの“超基礎”を一通り網羅しているので、予備知識のない方にもわかりやすくおすすめである。私たちの生活にとって馴染み深いマックの事例は、学習のとっかかりに最適だろう。ぜひ本書からマーケティングやビジネスの世界に入門してほしい。

文=中川凌