凄まじい“メモ魔”だった! 型破りな生き方を貫いた『レオナルド・ダ・ヴィンチ』の発想法を身につけるには?

文芸・カルチャー

更新日:2019/5/8

『レオナルド・ダ・ヴィンチ』(ウォルター・アイザック:著、土方奈美:訳/文藝春秋)

 レオナルド・ダ・ヴィンチといえば、「モナリザ」や「最後の晩餐」を描いたルネサンス時代の画家で、科学の分野でもさまざまな功績を残した稀代の天才――そんなイメージを抱いている人は多いのではないだろうか。

 日本でもベストセラーになった評伝『スティーブ・ジョブズ』の著者ウォルター・アイザックによる伝記『レオナルド・ダ・ヴィンチ』(土方奈美:訳/文藝春秋)を読めば、そんなイメージはちょっと変わるかもしれない。この上下巻合わせて600ページを超える大作を通じて、著者はその真の人物像に迫ろうと試みている。本記事ではその読みどころを3つのポイントにしぼって紹介したい。

(1)飽きっぽくて仕事を投げ出しまくり!? 意外にもアウトサイダー的だった人物像

 凄まじい“メモ魔”だったダ・ヴィンチ。その思考や思いつきの走り書き、観察の記録やスケッチといった自筆ノートは死後500年経った現在でも、奇跡的に7200ページほど残っているという。

advertisement

 著者はその自筆のノートすべてを実際に読破して本書を執筆。そこから見えてくるのは、解剖、化石、植物学、地質学、幾何学、飛行装置、機械工学、天文学、兵器などなど、ダ・ヴィンチが興味の赴くままに独創的な研究に打ち込んでいたことだ。そのなかには後世でその先見性が認められた数多くの重要な発明、発見もあったという。

 しかし、ダ・ヴィンチはそれら研究の成果を発表することを先延ばしにしてしまい、結局なにひとつ出版しなかったのでどれも功績として残らなかった。絵画についても気が乗らなければパトロンからどれだけ急かされようと絵筆を握らず、実際に描き始めても遅筆で納得できないものは完成させない。

 とにかく飽きっぽくて嫌な仕事をやりたくないダ・ヴィンチは、いくつもの作品や論文を未完のまま放り出してしまうのだ。そんなダ・ヴィンチに、なんとなく共感して親しみを覚えてしまう人も多いのでないだろうか。もちろん、その才能は別にして。

 私生活では同性愛者であることを隠さず、男色で二度も告発されている。しかし、その美しい容姿と穏やかで優雅な性格は多くの人々に愛された。常に華やかな装いで着飾った伊達男として振る舞い、人と違う道を歩んできたダ・ヴィンチ。本書ではその個性的な生き方も人間味あふれるアウトサイダー的な魅力として活き活きと描かれている。

(2)ダ・ヴィンチの“凄さ”がわかる、オールカラー掲載の図版144点

 本書の大きな特長ひとつは、「最後の晩餐」や「モナリザ」といったダ・ヴィンチの代表的な芸術作品から前述の直筆ノートやデッサンなどの図版がオールカラーで144点も収録されていること。それぞれについて著者が詳しく解説と分析をしているので、ダ・ヴィンチの発想と技法がいかに画期的だったのか、その原動力になった探究心や創造力の壮大さといったものが、芸術に造詣が深くなくてもわかりやすく伝わってくる。

「モナリザ」が紹介されている本書の終盤、第33章まで読み進めれば、なぜこの作品がダ・ヴィンチの芸術家としての集大成とされ、あの神秘的な微笑に多くの人が魅了されるのか、実感できるようになるだろう。そして、実物を見たことがある人も、見たことがない人も、改めて「モナリザ」を鑑賞したくなるはずだ。

(3)“普通の人”でも学べる! ダ・ヴィンチの生き方

 ダ・ヴィンチが偉大な天才であることは間違いない。本書を読めば、その才能と知識の射程の広さと深さに驚かずにはいられないだろう。

 しかし、著者はダ・ヴィンチに対して「“天才”という言葉を不用意に使うべきではない」という。それはダ・ヴィンチの意志と野心が生み出した非凡な才能をおとしめることになる、と。

 ダ・ヴィンチの芸術作品の源泉となっているのは、何より「好奇心」と「観察力」だ。それは努力することで伸ばせるし、そこから想像の翼を広げることもできると著者はいう。ダ・ヴィンチの人生からどのようなことが学べるか、著者はそれをリストにして本書の最後に紹介している。

 ダ・ヴィンチのような圧倒的な才能を発揮できる人はまずいないだろう。しかし、その生き方に学び、少しでも近づこうと意識することで、私たちの人生も豊かなものになりうるということを本書は教えてくれるのだ。

文=橋富政彦