最新台湾の本屋さん事情から考える、日本の「本の未来」とは?
公開日:2019/4/27
出版不況といわれて久しい。街の小さな書店は消えつつあり、電車のなかで文庫を広げる人は少なく、スマホをじっと見つめる人たちばかりだ。だが、代官山の蔦屋書店のような複合型書店が盛り上がりを見せており、本と私たちの関係が変わりつつあるのだろう。
『本の未来を探す旅 台北』(綾女欣伸:共著、山本佳代子:写真/朝日出版社)は、下北沢の人気書店「B&B」のプロデュースや多数の本にまつわる著書を手がける内沼晋太郎氏が、「本の未来を探す旅」と題し、ソウル編に続き台北編として台湾のインディペンデントな書店や出版社を巡った一冊だ。
内沼氏の最初の序文にあるように、1週間で20以上の取材をしたとあり、インタビューに加え、ショップや店主の写真が、テンポよく綴られていく。どうやって書店を営んでいるのかという経営や運営にまつわるハウツーから、雑誌の作り方や販売方法、デザインや古書等、「本」を中心に、台湾の今の文化を浮き上がらせていく。
実際に書店を営む内沼氏だからであろう、経営にまつわる数字のことなど、かなりデリケートな話題にもしっかり触れてくれている。難しいといわれる書店経営や、これから本にまつわる仕事をしてみたいという人にはもちろん、自分で何か商売をやってみたいという人にも参考になるに違いない。
ショップの風景や編集部、また、本にまつわる人々の姿や台湾の様子が多数の写真で綴られているのだが、人もお店も、発行される書籍もとても個性的なのが印象的だ。そして、ここに登場する人たちの誰もが、本にまつわる文化そのものを大切にしているのがわかる。それでいて、どこか人間くさく、手触りや温かさのようなものが感じられる。それこそが、日本と比べた時の台湾特有のカルチャーなのだろう。
海外旅行で、台湾に行く人が増えているそうだ。日本から手軽な距離で行けて、美味しいご飯や温暖な気候という魅力があるが、それだけではなく、日本にはない台湾独特の「ゆるさ」や「温かさ」が台湾にはあるからではないだろうか。本書では、「本」をテーマにしているものの、そんな台湾という国が持つ温度にも触れることができる。
台湾に興味がある人だけでなく、何か新しいことを始めてみたい、ちょっと今の仕事に疲れたという人にも、ピンチの切り抜け方や独創的な考え方のヒントになりそうな一冊だ。
ページをめくる度に、自分らしいビジネスを生き生きと楽しんでいる台湾の「本」にまつわる人たちに、エネルギーをもらえるはずだから。
文=ナガソクミコ