ドラマも漫画も大ヒット!生きづらくも、なぜかほんわかしてしまうゲイカップルの日常を描いた『きのう何食べた?』
公開日:2019/4/29
大型連休はどこに行こうにも、混雑している。かといってゆっくり家で過ごすにしても、どこか手持ち無沙汰を感じてしまうだろう。暇を潰すためのなにかが欲しいと思う瞬間があるかもしれない。
『きのう何食べた?』(よしながふみ/講談社)はそんな大型連休にまとめて読むにふさわしい漫画だ。本作は2019年4月5日深夜より実写ドラマが放送されている。放送終了後の盛り上がりはTwitterの世界トレンドで第1位になるほど。
本作の醍醐味は、感情を揺さぶられる壮大なストーリーを描いた漫画や、頭を使って読むサスペンス小説とは違い、なにも考えずに自然と読み進めることができること。暇な時間を癒しの時間に変えるにはもってこいだ。
主人公は筧史朗(かけい・しろう)と矢吹賢二(やぶき・けんじ)。ふたりはゲイカップルだ。
このふたりの特徴は、人間性がまったく逆であるという点である。史朗は倹約家で気難しいが、賢二は気さくで親しみやすい。一見まったく相いれないようだが、ふたりが過ごす日常には、家族のような温かみを感じる。
例えば、史朗が作る料理だ。作中に出てくる料理は栄養バランスが取れたものばかり。男同士のご飯で栄養を気にすることはそうそうないが、本作では、史朗が賢二の体を気遣い、栄養バランスの取れた食事が食卓に並ぶのだ。ここには不器用な史朗なりの賢二に対する「健康でいてほしい」という母親に似た思いが込められている。
また賢二も、史朗への心遣いを忘れない。史朗が仕事や家族のことで考え込んでいるときは、さりげなく手を差し伸べるのだ。このように、作中の随所に表れる温かみは、お互いを家族のように思うからこそ生まれたものであり、この漫画が自然と読み進めることができる最大の理由だ。
そんなふたりのゲイとしての生き方には違いがある。史朗はゲイであることを家族以外に話していないが、賢二は職場や友人に自分がゲイであることをカミングアウトしている。なるべく知られずに、ゲイとして波風を立てずに過ごしたいと考える史朗と、ふたりで過ごす幸せな日々を周りに包み隠さず話したいと思っている賢二。このふたりの考えは、現代のLGBTを取り巻く生きづらさを忠実に再現しているといっても過言ではない。しかし、そこに不自由さや重苦しさは感じられない。LGBTの生きづらさなどを感じてしまうとこの漫画は自然に読めなくなるだろう。
ふたりはゲイだ。しかし、作中で描かれる日常は異性のカップルや夫婦、家族が過ごす日々となにも変わらない。同性愛者という生きづらさを抱えながらもふたりで小さな幸せを積み重ねていく。本作は忙しい毎日を過ごす現代の日本人に、つかの間の休息と癒しを与えてくれる、そんな漫画といえる。仕事のことを忘れ、なにも考えずに読んでいただきたい。
文=トヤカン