「アフタヌーン・ティー文化」はなぜ生まれたのか。「食」から読み解く、イギリスの歴史
更新日:2019/5/14
最近の小説や漫画、ドラマを見渡すと、美味しそうな料理の出てくる作品のなんと多いことだろう。
出てくる品は、凝ったものでなくても良い。自分たちが、手が伸ばせるもので良い。主人公たちはそれらを食べることで、幸せや温もり、前に進む希望を得ていく。ドラマ化もされた『孤独のグルメ』や『いつかティファニーで朝食を』では、実在の店とそこで供されるメニューが登場し、読者も実際に足を運んで同じ食事を味わえるようになっている。
「食」は、いつの時代においても、生きていくために欠かせない大事な要素だ。「食」が生命を維持し、エネルギーを培い、時に心も癒してくれる。
そして、「食」に支えられて、人は活動し、「歴史」を紡いできた。
『大英帝国は大食らい』(リジー・コリンガム:著、松本裕:訳/河出書房新社)は、この「食」を通して、16世紀末から現代までのイギリス帝国の、植民地拡大の歴史を読み解いていく本である。
新大陸(アメリカ)、アフリカ、アジア、そしてオーストラリア、と4つの大陸において植民地を持ち、それらを繋げた大規模なネットワークを築き上げた、イギリス帝国。その拡大の推進力は、「食料探求」にあった―――。
本書の特徴として、全ての章が食事シーンから始まることが挙げられる。
たとえば、ニューイングランドに入植した、農夫一家の夕食。たとえば、20世紀に南アメリカのガイアナで、アフリカ系の労働者たちが酒場でイグアナカレーを作る場面。これらは全て、同時代の日記や手紙などをもとに再現されたものであり、出てくる料理のレシピの紹介もある(材料の入手が難しいものもあるが……)。
次いで、その食卓が成立した歴史的な背景が語られる。そこにあるのは、出来事の羅列ではない、生きた「物語」である。昔、学校で習った「出来事」の背景はこうだったのか、と腑に落ちることも多い。
さらに、領土拡大のプロセスの中で、イギリス人たちは新しい食材を取り込み、また自分たちの食習慣を植民地に伝播させ、先住民たちの嗜好をも変化させた。
その代表例が、紅茶である。
イギリスで「食」といえば、紅茶を思い浮かべる人は多い。また、イギリスでやってみたいことの一つとして、アフタヌーン・ティーもしばしば挙げられる。しかし、紅茶も砂糖も、イギリスにもともとあったものではない。砂糖は、17世紀にカリブ海の植民地に作られたプランテーションで大量に生産され、持ち込まれたことで値段が落ち、普及しやすくなった。
紅茶は、17世紀にオランダ経由で中国から入ってきたのが最初である。やがて、18世紀には、紅茶に大量の砂糖を入れて飲む習慣が広がっていく。そして、「午後の紅茶の習慣」は、植民地において現地の住民たちにも伝えられ、彼らを支配下に引き込むためのツールにもなった。
また、植民地に栄養不足を蔓延させてしまったことや、イギリス本国の伝統的なメニューの衰退など、帝国がもたらしてしまったマイナス面にも言及されている。
生きていく上で欠かせない「食」。今私たちが何気なく食べている一皿も、原料などのルーツをたどってみると、思いもよらないことが見えてくるかもしれない。
文=ヴェルデ