迷宮のように複雑怪奇で難解な腐女子の生態。彼女たちは、「幸せ」を見つける天才だった
更新日:2019/5/15
腐女子とはボーイズラブ(BL)と呼ばれる男性同士の恋愛を描いたマンガや小説を好む女子たちのことを指す。しかし、一言で「腐女子」と言ってもその中はかなり細分化されて複雑怪奇に入り組んでいるようだ。そんな腐女子の生態を描いた『難解な腐女子~生命の数だけ性癖はある~』(かおもじ/KADOKAWA)。まさにサブタイトルにもあるように「生命の数だけ性癖がある」。その生態を丁寧に、かつわかりやすく読み解いてくれているのが本書だ。
本書では、腐女子を大きく「ナメクジ腐女子」「ヘビ腐女子」「カエル腐女子」「ヤモリ腐女子」「カタツムリ腐女子」「カメ腐女子」と分類。それぞれのタイプは、少しずつ性癖が被りながらも完全に合致することはない。だけど各人の領域を侵さずに大きなひとつのユニバースを形成しているのが特徴だ。
全く違う性癖をもつ腐女子をつなぐのは、根底にある「好きなCP(カップル)が幸せならそれでいい」「性癖は違えども、同じ作品のファン」という考え方。腐女子はその一点を共有しているからこそ他人の性癖をおとしめず関わらず地雷は踏まず、それぞれのテリトリー内のみで楽しむ、平和な世界に住んでいる。
“現実世界でどんなにつらいことがあっても…”
“どこかで推しCP(カップル)がイチャついてるかと思うと…”
“生きててよかった~~~~~~~”
1巻ではそれぞれの生態を細かく分析。2巻ではさらに「思考」「即売会」「SNS」「嗜好」とジャンルを分けて解説。どのジャンルにおいても、自分に腐女子要素がないとしても共感ができるエピソードが沢山でてくるのが面白い。
例えばSNSではワードミュート機能をありがたがる人や、こまめにコミュニケーションをとる人が描かれ、その中でこんなパワーワードもでてくる。
“TL(タイムライン)は私のおうち”
“常に居心地のいい場所にしたいのです”
SNSのタイムラインですら、腐女子にとっては最大限にBLを楽しむ場所。その徹底した姿勢には、尊敬の念すら覚える。
腐女子とは愛が沢山ある人たちなのだろう。そして、日々を楽しむ天才だとも思う。推しカップルが幸せなだけで世界中が愛にあふれ、さらに、同人誌に代表されるように、自らの手で幸せになれる要素も供給することができる人たちだ。
2巻の巻末に収録されている番外編、ナメクジ腐女子のめめとナナの「同人誌はじめて物語」は感動するのでぜひ読んでいただきたい。他人に押し付けはしないけど、好きなものは好き。もし、好きを誰かと共有できる瞬間があったらもっと天国。時々そんな喜びがあるから人生は楽しいと思わせてくれる。
文=中原由梨